━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ IT Pro Executive Radar by 日経情報ストラテジー     2003/12/17 ……………………………………………………………………………………………… 〜 IT経営に関するニュースやトレンドを毎週お届けします 〜 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ コ┃ラ┃ム┃ 木暮仁の「情報化の法則」 ━┛━┛━┛━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 謙譲の徳か責任放棄か ●「ユーザの声は神の声」  「ユーザ主導」のシステム開発が重要だといわれきた。情報システムは利用されて ナンボなのだから,利用者のニーズをよく理解してそれを実現することが大切である とされてきた。また,製造業での「後工程はお客様」は,品質向上に大きな貢献をし てきた。それが情報システムの分野でも「ユーザはお客様」という表現が多く使われ るようになった。  これ自体はもっともなことではあるが,ややもすると「ユーザの声は神の声」であ り,「ユーザのいうことを聞いていればよい」という受身的な文化になってしまった。 情報システム部門にとって利用部門はお客様ではなく,対等の戦友のはずであるのに, 自らを低く位置づける習慣が根付いてしまった。 ●「情報システム用語は禁止用語。利用部門用語は必須用語」  「情報システム部門は,わけのわからぬ英略語を使いすぎる」といわれ,「利用者 が理解しやすい表現をする」ことが説かれる。それに対して,利用部門の人に「自部 門の特殊用語を使うのはやめよう」とか「情報システム部門にわかりやすい表現で要 求をしよう」などとはいわない。むしろ「情報システム部門はもっと業務を理解しろ」 といわれる。なんだかアメリカ人と付き合っている気分になる。  世界中で日本語人口よりも英語人口のほうが多いのだから仕方がないが,利用部門 の社内用語と比較すれば情報関連用語のほうが多数派である。社内に限定しても,経 理部門や購買部門の経験者よりも情報システム部門の経験者のほうが多いのだ。 ●「人事部が人材をよこさなくても非難しない。経理部門が予算を認めなくても非難   しない。情報システム部がシステム要求を満足しないと非難する」  人事部門も経理部門も情報システム部門と似たような部門であるのに,社内での地 位はかなり異なる。人事部や経理部が現場の状況を知らないことは,誰でもが痛感し ている。  それなのに,「ユーザ主導」の人事配置とか,各部門代表による「経営予算委員会」 での予算優先順位決定はあまり聞かない。自己申告や評価などの方式は各部門に相談 せずに人事部が一方的に決めており,自分の名前を何度も記入させられるが,みなそ れに従っている。ところがコンピュータへのデータ入力になると,ちょっとした重複 入力も拒否される。予算申請ではあの手この手をつくして経理部を説得するのに,そ の査定結果は理由書もなく一方的に通達される。ところがどういうわけか情報システ ム部門だけが,ユーザの意向を全面的に受入れるように強制されており,利用部門の 要望の一部をカットするには,情報システム部門はかなりの説得をする必要がある。   ●「情報システム部門は自部門の権限を少なくするよう努力する」  1980年代中頃にSIS(戦略的情報システム)がブームになり,情報は経営戦 略実現の武器だといわれるようになった。それならば,情報システム部門がITガバ ナンスを掌握するのかと思ったら,情報システム部門の責任者に情報技術の素人であ るCIOを向かえ,情報化計画の策定や予算作成の決定権を他部門の部長クラスから なる経営情報委員会に譲渡した。しかも,それらの部長は,情報活用には疎いので, その部門のパソコン愛好者の意見を代弁することになった。この結果,ITガバナン スに関する実質的な責任者が不在になった。それが問題となり,その後,情報システ ム部門を戦略部門化しようとの動きが活発であるが,情報システム部門はすでに牙を 失っている。  ここで問題なのは,これらを経営者や利用部門から強制されたのではなく,情報シ ステム部門が自発的に規制したり提案してきたことである。権力闘争が激しい組織に おいて自らの権限を放棄するとは,けなげな心がけだともいえるが,ホンネでは,厄 介なことに巻き込まれたくないという保身的な無責任な態度だともいえる。