主張・講演情報化投資の費用対効果

指標評価による効果測定法とその限界

情報化投資の効果には,定量的効果以外に定性的効果や戦略的効果があります。これらを定量的な尺度できれば金額的に評価するために,いろいろな指標評価モデルが提案されています。しかし,本質的に主観による評価になりますので,そこに問題が起こります。


定性的効果の定量化

定性的効果だからといって,単にその効果を列挙しただけでは,投資を判断する評価としては不十分です。何らかの手段により,金銭的な価値に換算する必要があります。それには,定性的なものを測定可能な物理量で代表させるステップと,その物理量を金銭価値に変換するステップがあります。

測定可能な指標への変換

測定可能な物理量の設定

「測定できないものは管理できない」という言葉があります。例えばグループウェアの効果を情報共有化という定性的な表現をしたのでは,効果を測定することができません。それを紙の消費量や会議の人・時といった測定できる物理量で表現することが必要です。
 この物理量をKPI(Key Performance Indicator:重要業績達成指標)といいます。また,常にKPIを監視して,必要に応じて対策をとることをモニタリングといいます。

ここで何をKPIにすればよいかが問題になります。グループウェアの導入効果を紙消費量の削減で代表させると,電子メールをプリントして読む人などがいると,効果がないどころか損失が増大する結果になってしまいます。
 KPIは定性的効果をよく表現でき,関係者が理解でき,モニタリングが容易なものであることが望まれますが,環境や目的により大きく異なりますので,一般的な基準を設定するのは困難です。むしろ関係者の合意を得ることが大切です。

投資をする以前に,測定する項目の現状を把握しておく必要があります。それがいい加減だと,情報化以前の数値がわからないので,後になって効果を算出することができません。
 さらに,紙消費量を30%削減するというように,目標とする数値を明確にしておく必要があります。それがあいまいだと,ある人は10%の削減が実現してもそれで成功だというし,他の人は50%の削減が実現しても不十分だということになり,抽象的な議論になってしまいます。
 また,システムを開発するときに,KPIをモニタリングする仕組みを組み込んでおくことが重要です。モニタリングが面倒であったりモニタリングのルールが明確になっていないと,人により測定値が異なり評価が主観的になってしまいます。

KPIと目標値を明確にすることが重要なことを例で示します。

このような状況のとき,この「情報化」は成功だったのでしょうか,失敗したのでしょうか? また,その成否に情報システム部門はどのような責任も持つのでしょうか?

物理量の金銭変換

紙消費量をKPIにしたのであれば,紙1枚を削減できたらいくらの効果になるのか,金銭換算することができれば,費用対効果の評価が容易になります。
 ここで,換算の精度は重要ではなく金銭換算をするのにどこまで考えるかが重要です。単に紙の価格やコピー費用だけにするのならば数円〜十数円です。それを「5円ではない。5.23円だ」などと精度を問題にするのは無意味です。印刷やコピーをすることによる人件費や,保管するキャビネットの価格やオフィススペースの費用,さらには検索するための費用なども加えると数百円になるかもしれないのです
 いづれにせよ,金銭換算は主観的なものですから,「正しい」値を求める努力をするよりも,関係者間でコンセンサスを得ることと,ときどきそれを見直すことのほうが重要なのです。また,場合によっては,あえて金銭換算をせずにKPIの目標達成度を評価基準にする場合も多いのです。

戦略的効果の評価手法

個々の情報化案について戦略的効果を定性的効果さらには定量的効果に分解できればよいのですが,それはかなり困難です。むしろ,経営戦略の策定から情報化戦略の立案のプロセスにおいて,情報化の評価を行うのが一般的です。

KGI・CSF・KPI

情報システムが経営戦略の実現にどの程度寄与するのかを考えることが必要です。経営戦略の策定では,売上高,利益,顧客満足,従業員福祉など多様な指標がありますが,その主要な指標をKGI(Key Goal Indicator:重要目標達成指標)といい,それを実現するための主要な方策をCSF(Critical Success Factor:主要成功要因),それらの結果を測定するための指標をKPIといいます。KPIには目標となる数値が与えられます。

KGI・CSF・KPIの関係

評価表による評価方法

いずれにしてもこれらの方法で効果を算出するには,
   情報化投資に関連するいくつかの評価項目を列挙し,
   それぞれに重み付けをして,
   それにたとえば5点法などで点数を与えて,
   それらの総得点を計算する
の手順で行います。それをここでは「評価表による評価方法」ということにします。

評価表

例として「クレジットカードの発行」の情報化投資を考えます。

評価項目の列挙
この投資のKGIは「顧客の増加」や「レジ業務の合理化」などでしょうが,それをもっと具体的にしたKPIでは,「カード加入者数」,「加入者の再来店率」,「レジ担当者の教育期間」,「顧客一人あたりのレジ時間」などになります。
このKPIに与えた目標数値を評価項目とするのが適切ですが,KPIの項目だけの場合もありますし,KGIをそのまま評価項目にすることもあります。
項目の重み付け
全体を100点として,「カード加入者数」が目標に達成できたときには50点満点,「顧客一人あたりのレジ時間」は30点満点というような各評価項目にウェイトを与えます。
評価点
その各項目について,この提案で達成できる値あるいは確率的な要素も入れた期待値を,5段階法などで評価します(評価が5のとき満点)。例えば,このシステムによりカード加入者数が4万人程度になると期待できるから3にするというような評価です。あるいは,目標値が「必ず達成できる」なら5,「ほぼ達成できる」なら4というような評価をすることもあります。
総得点を計算
例えば上図のように,評価項目Aは重み付けした満点が50点であり,評価が5段階の3なので50×3/5=30点というように計算し,その合計を計算します。ここでは80点になりました。

このような手段により,戦略的効果や定性的効果を定量化することができます。この80点をどう金銭換算するかは,先に述べたような方法になります。
 なお,この変形として,評価を現在での評価と情報化投資後の期待評価に分けて,その差を計算することにより,「現在は30点なのが,この投資により80点に向上させることができる」とすることもあります。また,重み付けを直接に(強引に)金額で表示することもあります。

要因の相互関係

KGIやKPIは互いに関係しています。例えば「カード加入者数」を実現するには「レジ時間の短縮」や「付随サービス」などが関係するでしょう。そのようなときには,上のような単純な評価表では不十分です。

ビジネス・モデル図

現実にはこれらの効果は独立しているのではなく,Aが実現することによりBが可能になる。CとDが実現すれば相互効果によってC+Dよりも価値のあるEの効果があるというような関係があります。そのようなときには上記のような評価表だけではうまくウェイト付けができません。それで右のような図を書くことがあります。

バランス・スコアカード

バランス・スコアカードによる評価方法も注目されています。バランス・スコアカードとは,「財務の視点」「顧客の視点」「内部プロセスの視点」「学習と成長の視点」の4つの視点でKGI,CSF,KPIなどを策定し具体的な数値尺度を与える方法ですが,事業部門の戦略を評価をしたり事業部門間の調整をしたりすることができます。
 このような考え方を情報化投資に活用することにより,情報投資が経営戦略にどのように貢献するのか,どの程度貢献できるのかを把握しようという考え方が注目されています。

バランス・スコアカード

評価表の限界と意義

とかくバランス・スコアカードのような手法が万能薬であり,これを用いれば情報化投資なども合理的な評価ができるようにいわれることがありますが,そうは甘くはないのです。

評価表による評価の限界

評価表による評価は本質的に
   評価項目の選択
   重み付けの配分
   項目の評価
などに主観が入りますので,客観的な評価とはいえません。

情報化案については,何らかの理由により評価をする以前に推進派と反対派がいることが多いものです。項目を列挙すること,ウェイト付けをすること,評価をすることのすべてが主観的なものですから,その立場によって自分に都合のよいようにアレンジすることも起こります。評価表によって評価をするのではなく,結論が先にあって,それを説得するのに合致するような評価表にすることが起こります。
 そのような対立がない場合でも,気づかない項目もあれば評価の基準が人により異なることもあります。また,現実には項目を列挙するだけでもかなりの作業になります。それを支援するために,多くのコンサルタントが標準のものを用意して,それをベースにして対象に合わせて修正できるようにしてあります。しかし,そのような支援があるにせよ,主観的であることには変わりありません。

評価表の意義

しかし「だから評価表などは無意味だ」というのではありません。客観的な数量化をするのには限界があるので,これにより「合理的な」採否決定はできないというだけです。
 そもそもこのような評価方法は,客観的な定量化や金銭化を目的とした方法ではなく,関係者のコンセンサスを作ることと,将来への改善に役立つことを目的とした方法なのです。そして,現実にはこれで十分なのであり,このような方法を採用することが重要なのです。

重要項目の発見
評価項目や評価ウェイトについて標準的な資料を用いたり,関係者が討議を重ねることにより,個人では気づかなかった項目やその重要度を発見したり,自分の先入観を修正することができます。
共通の問題認識
関係者全員が共通の土俵で意見交換ができますので,各人の意見がよく理解できます。それにより全員が一致した意見に収斂すれば統一した評価になります。また,収斂しない場合でも,何がどのような理由で対立しているのかについての共通の問題認識ができます。
検討項目の明確化
共通点と対立点が明確になれば,共通点だけで決定ができることもありましょう。対立点では何をどの程度の精度で調べればよいかが明確になります。
効果測定指標の明確化
評価表の特徴に目標の設定があります。実施したときにどの項目がどの程度になれば成功(失敗)なのかの効果測定指標が明確になります。それをモニタリングすることにより評価が明確になります。そして,失敗しそうな状況になったとき,早期に対処して失敗を未然に回避することができます。
計画作成の成熟度向上
効果測定指標が明確になりそれが常に測定されるので,事後の結果と計画とを比較することにより,計画作成の成熟度を向上することができます。これを積み重ねることにより,評価表が洗練されたものになり,以後の計画を優れたものになります。

当然,関係者のコンセンサスが客観的に正しいものだという保証はありません。でも,現実にはコンセンサスを得ることが重要なのであり,それで意思決定には十分だといえます。もし,このコンセンサスに誤りがあれば,効果測定で発見できて修正されるでしょうし,もし失敗したとしても以降の計画改善に役立つでしょう。そのような継続的な改善活動が重要なのです。
 ところが,情報化投資の判断基準や指標を持っている企業は未だ非常に少ない状態であり,これでは,「成功したのか失敗したのかわからない」とか「立場や視点により評価が違う」などになってしまうでしょう。改善活動が行われないと,何度も同じ失敗を繰り返す危険があります。

投資基準の有無

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