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IT技術者の定義と人数

キーワード

日本標準職業分類、日本標準産業分類、情報通信業、情報サービス業


「IT技術者」の明確な定義はありません。そのため、IT技術者の総数も明確には把握できません。それにもかかわらず、多様な定義を説明するのは、次の理由があるからです。
 たとえば、日本標準職業分類での情報処理技術者には、コンサルタントやオペレータは入っていません。日本標準産業分類での「情報通信業」には、プログラマもテレビの女子アナも含まれており、逆に、ハードウェアの設計者は含まれていません。「情報サービス業」に絞っても、経理部や人事部などITとは直接の関係がない人が含まれています。IT技術者の年収や労働時間などに関する各種統計を読むときに、調査対象の範囲を明確にしないと、誤った認識をする危険性があります。

イメージとしてのIT技術者

IT技術者というと、次のような人を連想するでしょう。しかし、このような定義では、職業人の大部分がIT技術者だということになります。

  1. ITのインフラを提供する人 (詳細)
  2. 製品やサービスの創造にITを活用する人 (詳細)
  3. 企業の情報システムを提供する人 (詳細)
  4. 情報システムを活用する人 (詳細)

日本標準職業分類での情報処理技術者

日本標準職業分類は、個人を対象にした分類です。この分類による人数は、5年ごとに行われる国勢調査で調査されます。国民全員が回答するので、最も精度が高い調査ですが、あくまでも回答者が職業分類表から選んで記入する自己申告です。
 その分類は2009年に改訂になりました。

日本標準職業分類(2009年基準)

  大分類            中分類(抜粋)            小分類
A-管理的職業従事者
B-専門的・技術的職業従事者┬07-製造技術者(開発)
C-事務従事者       ├09-建築・土木・測量技術者
D-販売従事者       ├10-情報処理・通信技術者      ┬101 システムコンサルタント
E-サービス職業従事者   ├12-医師,歯科医師,獣医師,薬剤師 ├102 システム設計者
F-保安職業従事者     ├18-経営・金融・保険専門職業従事者 ├103 情報処理プロジェクトマネージャ
G-農林漁業従事者     ├19-教員              ├104 ソフトウェア作成者
H-生産工程従事者     ├21-著述家,記者,編集者      ├105 システム運用管理者
I-輸送・機械運転従事者                     ├106 通信ネットワーク技術者
J-建設・採掘従事者                       └109 その他の情報処理・通信技術者
K-運搬・清掃・包装等従事者
L-分類不能の職業

出典: 総務省統計局「日本標準職業分類(平成21年12月統計基準設定)」 より抜粋・作表(注)

2009年基準は、ISCO(International Standard Classification of Occupations、国際標準職業分類)2008年改定版にほぼ準拠した分類になっている。
 2005年調査までは、「情報処理技術者」はシステムエンジニアとプログラマだけに分類されていた。一応、次の対応にしているが、明確とはいえない。ITコンサルタントやコンピュータオペレータなどの人たちは、他の分類に記入していたかもしれない。
  システムコンサルタント、システム設計者、システム運用管理者←システムエンジニア
  ソフトウェア作成者←システムエンジニアとプログラマに混在
  情報処理プロジェクトマネージャ←該当なく新設
  通信ネットワーク技術者←他の中分類「機械・電気技術者」に属していた。

2010年国勢調査は、この基準で行われましたが、中分類以下の統計は現在集計作業中で公表されていません。それで、ここではそれ以前(1997年)の基準による2005年調査をベースにします。
 そこでは、情報処理技術者は、大分類「専門的・技術的職業従事者」の中分類に属し、システムエンジニアプログラマに分類されています。
 当時の職業分類では、コンピュータ設計者、ITコンサルタント、コンピュータのオペレータなどは情報処理技術者には入りません(図表)

日本標準職業分類(部分)

2005年調査では、情報処理技術者数は約82万人で、そのうち、システムエンジニアが約90%、プログラマが約10%になっていますが(図表)、現実にはプログラマの比率はもっと大きいでしょう。また、プロジェクトマネージャや組込みソフトの技術者などが、システムエンジニアやプログラマと記入したかどうか疑問です。 (図表)

日本標準産業分類によるIT業界の従業者

日本標準産業分類は、事業所を対象にした分類です。「E 製造業」、「I 卸売業・小売業」のように、産業をA~Tに大区分し、そのなかに「G 情報通信業」があります。
 ソフトウェアの開発やコンピュータ処理を受託するような産業、すなわち、多くのIT技術者が所属する産業は、情報通信業のうちの「情報サービス業」に分類されます。
 情報通信業には放送業や映像制作業も含まれます。そのため、女子アナウンサーやアニメ制作者などがプログラマと同列に扱われることになります。さらに、提供総務省「情報通信白書」では、情報通信に関する豊富な資料を提供していますが、そこでの「情報通信産業」の統計には、電柱の修理をする人まで含まれることになります。(図表)

日本標準産業分類(部分)

企業を対象にした調査統計には、全業種を対象にした「経済センサス」、情報サービス業も含む21業種を対象にした「特定サービス産業実態調査」があります。
 これらの統計データは、日本標準産業分類により集計されています。最近の調査では、情報サービス業の従業者は100万人弱で、就業者全体の2%程度です。(図表)
 しかし、情報サービス業での営業部門や経理部門などITとは直接の関係をもたない人も入っています。逆に、この数には製造業や小売業などのIT部門の人たちが含まれていません。その数はかなり多いと推定されます。

経歴・資格によるIT技術者

大学等で情報学部や情報学科を卒業した学生をIT技術者だとするのも無理があります。大学での情報学部・学科・専攻などの卒業生は、ほぼ毎年1.5万人です。実際にIT業務に従事している人の総数からみて、あまりにも少ない数字です。また、情報学部や情報学科の卒業生で実際にIT業務についている人は約半数強だといわれています。
 ところが、大学でのIT教育についての議論では、情報学部(学科)だけを対象にしていることが多いのです。

同様に、IT関連の資格取得者をIT技術者とするのも無理があります。資格はないが高度な技術をもって活躍している人も多数います。
情報処理技術者試験の合格者は既に100万人を超えていますが、そのうち半分近くが初級システムアドミニストレータ(現ITパスポートに相当)です。この資格をもつことでIT技術者であるとするのは広義すぎるでしょう(図表)

現実的な意味でのIT技術者

IT技術者の定義があいまいなのですから、IT技術者の人数も明確に把握されていません。(各種統計調査の特徴やそれによるIT技術者の推定については、 『IT人材市場動向予備調査報告書(前編)』(平成20年)に詳しい説明があります。)

IT技術者は、
  ベンダ技術者:他社のシステム開発を受注する企業に属している技術者
  ユーザ技術者:IT部門に属しており、自社の情報化を推進する技術者
に区分できますが、経済産業省では、IT技術者の総数は100万人強だと推定しています。 (図表)
 IT人材白書2012年版(調査2011年)では同様な推定をしています。
   IT提供側人材  77.8万人
   IT利用側人材  25.2万人
   IT人材数合計 103.0万人

 これより多く、120万人としている調査もあります。
 各種組織が行っている「IT技術者」を対象にしたアンケート調査でも、ベンダ技術者の割合が約3/4を占めているのが通常です。それに対して、米国ではこれとは逆で、ユーザ技術者が大半を占めています。 (図表)

日本のIT技術者は少ない

OECDでは、全就業者に対するIT職業者の比率を発表しています。欧米では4%程度になっています。日本では、これに相当する統計が不備で、上記の100万人強とすると2%未満です。各国でのIT技術者の定義や測定方法が異なるので一概にはいえませんが、日本のIT技術者は、かなり少ない状態です。 (図表)

国はIT推進戦略を講じており、IT人材の育成を重点の一つにしていますが、各国と比較して、日本では情報学部卒業生が少ないことが指摘されています。 (図表)


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