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ここまで線形計画法の解法や意味を学習してきました。ここではやや実際に似たケースを用いて,実務で線形計画法を利用することの効果を理解します。制約条件に余裕があるかどうかで実際の価値は大きく変化するので,利益向上のためには通常の会計的な原価計算を用いることが危険であり,線形計画法による最適化やレジュースト・コストの概念が適していることを理解します。
線形計画法,レジュースト・コスト,会計的原価計算,限界利益,余裕の有無,見えないロス
原料Aと原料B(原油?)を,装置Pと装置Qを通して,製品X(ガソリン?)と製品Y(重油?)を生産している企業を考えます。目的関数は,利益=製品価格-原料価格-装置費用を最大にします。原料は,装置Pにより製品Xと製品Yに分離されますが,その得率が異なります。製品Yは装置Qを通すことにより製品Xにすることができます。原料や製品の価格,設備を通す費用,装置Pでの得率などは,下図に示してあります。

これを線形計画法のモデルにするには,入力側と出力側のバランスを正確に記述することが必要です。次の関係があることがわかります。
原料と装置の関係から: A+B≦P
中間製品と製品Xから: 0.6A+0.3B+Q≧X
中間製品と製品Yから: 0.4A+0.7B-Q≧Y
本来は不等号ではなく等号にするべきでしょうが,利益が最大になるときは,結果として等号になるのは当然です。線形計画法では制約条件を等号にするよりも不等号にしておいたほうが都合がよい(理由は省略)ので,このようにしました。また,原料,製品,設備能力に下限と上限を与えました。
なお,目的関数は次のようになります。
利益=10X+6X-6A-5B-1P-3Q →最大
これをExcelのソルバーで解くには,下図のように設定します。

X≦150,P≦200,Q≦60の場合(これを「標準ケース」ということにします)について,線形計画法を知らないとして,ある程度の論理と直感により最適解を求めてください。
でも仮定1は間違いないとして,仮定2も成立するのでしょうか? 装置Pから出てくる量が60より少ないことはないでしょうか? 装置Pが最大になることが証明できるでしょうか? などの不安が残ります。
実は,これらの仮定は正しく,線形計画法による最適解は下図のようになります。赤い数値が最適解であり,緑色の( )はレジュースト・コストを示します。

このように非常に単純なモデルでも案外大変なことがわかります。まして実際の石油精製モデルでは制約条件や製品の個数は数千個にもなります。とうていモデルを眺めて解けるものではありません。コンピュータを利用するにしても,線形計画法を知らなければ,どのうに計算させればよいかもわかりません。
Aを1使うことにより,Xが0.6,Yが0.4できるのですから,それによる収入増加は0.6×10+0.4×6=8.4円になり,Aの価格は6円,Pの費用は1円ですから費用増加は7円ですので,利益増加は8.4-7=1.4円になります。同様にBを1使うことにより,(0.3×10+0.7×6)-(5+1)=1.2の利益増加になります。Aのほうが0.2円有利ですからA=200としたくなります。これが会計などで行われる原価計算ですね。
あるいは,Yの6円ではなく,Qを通すことによりXになるのだから10-3=7円を適用したらどうかという案もありましょう。それによればAは1.8円,Bは1.9円になり,こんどはB=200としがちです。これらのどちらも正しくないのです。
Xの原価計算はどうでしょうか。単純にAが100%Xになるとすれば,AとPから原価は7円だといえます。Bも使うのであればそれよりも安くなります。また,Yを原料とするのだと考えればQの費用を加えて9円になります。どちらを採用するかで迷いますが,いずれにせよXの上限制約を1だけ緩めれば利益は1円以上増加すると考えられます。これが通常の会計的な限界利益の考え方ですね。ところがXのレジュースト・コストは0.67で,0.67円しか利益増加にならないといっているのです。もし,Xの価格が9.2円だったら増産するのでしょうか減産するのでしょうか?
実際にX≦150をX≦151に修正して線形計画法で解いた結果は下図のような変化になりました。赤色の数値は数量の増減,青色の数値は金額の増減です。

これからもわかるように,Xの変化は原料構成の変化にまで影響するのです。いいかえればレジュースト・コストとは,
レジュースト・コスト=(修正後での最適解)-(修正前の最適解)
を示しています。それに対して通常の会計的な原価計算では,
・部分的な範囲だけで判断しており,全体を考えていない
・状況の変化により最適な手段が変化することを考慮していない
という欠点のために,誤った結果になる危険が多いのです。
極端なケースとして,Xの上限を取り払ってみましょう。装置PとQの制約はそのままとします。その結果を示します。

このときはXの得率が大きいAが有利になります。Bのレジュースト・コストは-0.2であり,会計的原価計算で行った「Yの評価を6円としたとき,AのほうがBよりも0.2円有利」という結果と一致します。ここでYの評価として6円を用いたのは,Qが上限に達しているので,これ以上生産してもYの価格でしか売れないからです。もしQに余裕があるならば,すべてがQを通してXとして売れるので7円を用いるので,Bのほうが有利となります。
Qのレジュースト・コストが1円なのは,Yを原料としてXを作るのですから,これも会計的原価計算と一致します。ところが,Pのレジュースト・コストは1から1.4へと増大しています。これは標準ケースではXがこれ以上売れないので,Pの能力を上げてもYしか増産できなかったのが,このケースではXが増産できるようになったからです。
こんどは,X≦150として,Pの上限を取り払ってみましょう。その結果は次のようになります。

いままで最大になっていたQが0になってしまいました。いままでのQの価値は(おおざっぱには)XとYの価格差でした。ところが,このケースではPに余裕ができたので,Xを生産するための原料が豊富にあるために,Xと原料の価格差がQの価値になったのです。しかも原料の価格は原料構成の変化での価格差ですからかなり安くなります。それでQが競争に負けてしまったのです。
このように制約条件が厳しいか余裕があるかによって,製品,原料,装置などの価値が大きく変化します。その認識をしないで計画を作り実施したのでは,大きな見えないロスを生じてしまいます。その結果は,これをよく認識している他社との競争に負けてしまうことになるのです!