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情報化社会の特徴

キーワード

工業化社会と情報化社会、顧客志向マーケティング、メットカーフの法則、ギルダーの法則


工業化社会と情報化社会

18世紀の蒸気機関の発明を発端とした機械工業技術の進歩は,それまでの農業を中心としていた社会から工業化社会に移行させました。
 工業化社会への移行は,個人の生活から国家や社会の構造にいたる広い分野において,従来の体制を根本的に変化させました。それを産業革命といいます。この工業化社会は,その後現在にいたるまで急速に発展してきました(図示)

産業革命は、広い分野で大きな変化を与えました。

図では、「情報化社会」「高度情報化社会」「ユビキタス社会」と歴史的に3段階に区分しますが,これは便宜的なもので、人によって解釈は異なります。
  ・情報化社会(~1990年代後半)インターネットの普及が顕著になるまでの時代
  ・高度情報化社会(2000年代初頭)IT革命が流行語になった時代
  ・ユビキタス社会(2000年代中頃)現在

1970年代頃から,コンピュータやネットワークなどの情報技術の進歩と発展により,情報の価値がモノやエネルギーと同等あるいはそれ以上に重視されるようになりました。情報の価値を中心に社会経済が発展していく社会になってきたことが認識され,脱工業化社会とか情報化社会といわれるようになりました。(参照:林雄二郎『情報化社会』1969年、アルビン・トフラー『第三の波』1980年)
 このような動向が、産業革命に匹敵するほどに広範囲に急激な変化をもたらすことが指摘され、2000年頃にはIT革命といわれるようになりました。
 工業化社会はモノが中心の経済でしたが,情報化社会では情報や知識が付加価値の源泉となる経済になります。両者の経済原則には大きな相違があります。

顧客志向マーケティング

工業化社会から情報化社会への変化を,企業でのマーケティング戦略を例にして説明します。モノが不足している時代では作れば売れるのですから,大量生産が企業発展の基本でした。それを生産志向マーケティングといいます。生産が進み需要と供給がほぼ均衡するようになると,いかに売るかという販売志向マーケティングになりますが,それでもよい製品を安く提供することが競争に勝つことになりますので,大量生産して大量販売することが重要な戦略です。すなわち,規模の経済を基本としたマーケティングであり,工業化社会はそれに適した社会でした (図示)

ところが1970年代頃になると,モノが潤沢な時代になりました。そうなると,価格を重視する人,品質を重視する人,デザインやブランドを重視する人など消費者のニーズも多様になりますし,そのニーズが時と場合により異なり,しかもその変化が激しくなります。このように消費経済が成熟化した環境では,大量生産・大量消費の経済は限界に達しました。顧客ニーズしかも「個客」のニーズに合致した新製品・新サービスを迅速に提供することが必要になります。このような顧客のニーズを重視するマーケティングを顧客志向マーケティングといいます。

顧客志向マーケティングでは,顧客の消費動向をすばやく入手して分析すること,それに合致する製品開発のために社内外の知識を結集すること,製品の部品入手から納入にわたる供給に関係する企業間で情報の共有化を図ることなど,「情報」がマーケティングでの大きな要素になってきます。しかも,これらは一企業では限界がありますので,企業間での情報の共有や業務連携が重視されます。すなわち,規模の経済から連結の経済へと変化することになります。
 なお、顧客は単に消費者ではなく商品やサービスに囲まれて生活をする生活者です。その観点から,リサイクルが容易で地球にやさしい商品を環境を配慮した手段で提供することも提供者の任務であり社会的責任です。それを実現することが顧客満足につながります。そのようなマーケティングを生活者志向マーケティング環境志向マーケティングといいます。

情報化経済の特徴

収益逓増の法則
モノは他人に渡せば自分の持分は減ってしまいます。また,みんなが同じモノを持つようになれば,そのモノとしての価値は低下してしまいます。それを収益逓減の法則といいます。ところが情報(知識)は,他人に渡しても減るものではありませんから,1個だけ作れば無限の需要に応えることができますし,普及するに伴い価値が上昇するのです。
 例えば,電話は加入者が多いから価値が増大するのです。WindowsというOSは,利用者が多いからますます利用者が増大するし,それを利用したハードウェアやソフトウェアも多く提供されるようになり,ますます価値が増大するのです。「情報の価値は利用者数の2乗に比例する」というメットカーフ(メトカルフェ)の法則(Bob Metcalfe),すなわち,収益逓増の法則に従うようになります(図示)。なお、近年では収益逓増の法則を、消費者が同種の財の消費者に与える外部経済という意味で、ネットワーク外部性ということが多くなりました。

時間・空間的制約の解消
モノを保管したり移動するには大きな流通コストがかかりますし,移動のための時間もかかります。すなわち,モノという経済資源は移転に大きな制約があります。それに対して情報という経済資源は,米経済学者ギルダーVirtually Freeの仮説(ハード・ソフト・通信の費用対性能の向上により,情報の発信や受信にかかるコストは実質的に無料に近くなる)のように,貯蔵するにも移動するにも時間や距離の制約が非常に少なくすることができます。実際にモノを送る場合でも,花のギフト販売のように,注文した花屋と届け先に近い花屋の間では,花というモノではなく注文という情報を送ることにより,実際の移動を極度に少なくすることができます。
 また,モノを資源として他のモノを作り出すには設備や労力がかかりますが,情報の加工は個人レベルでも非常に簡単に行なうことができます。このような違いは,産業だけではなく生活においても,大きな変化を促しています。

理解度チェック: 正誤問題選択問題