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財務報告の内部統制とIT(日本版SOX法)

学習のポイント

かなりの長文ですが,ここでは,「概要説明」「法規・基準」「ITとの関連」の3つに区分して説明しています。

キーワード

金融商品取引法(日本版SOX法),COSO,SOX法(企業改革法),内部統制,金融庁基準


概要説明

日本版SOX法の意義

日本版SOX法とは,上場企業に対して,財務報告の信頼性向上のために,財務報告書とともに,
  ・経営者が財務に関する内部統制を行った内部統制報告書
  ・その報告書を監査人(公認会計士)が監査した監査証明書
の提出を義務づけたものです。

財務報告書とは,貸借対照表や損益計算書など企業の財政状態および経営成績を公表するものです。財務報告書は,多くの関係者に影響しますので,正しいことが求められます。
 ところが,実際以上に成績をよく見せようとする粉飾決算,脱税を目的とした逆粉飾決算が行われがちです。

このような不正行為は,多数の関係者に多大な損害を与えますし,資本主義の基盤を崩すことにもなりますので,法律で厳しく禁止されています。その一つとして,第三者である公認会計士による会計監査を行い,財務報告書が真実であることを証明することになっています。
 それにもかかわらず,不正な決算操作が行われています。会計監査だけでは不正操作が発見しにくいこともありますし,公認会計士がその不正に加担している事件もあり,大きな社会問題に発展しました。

それで,公認会計士による会計監査だけでなく,財務処理での誤りや不正が発生しないように,社内でも経営者が責任を持って内部統制の仕組みを整備すること,それが正しく運営されていることを経営者が評価して公表すること,さらに監査人がそれを監査することにしたのです。

日本版SOX法の体系

日本版SOX法という法律は存在しません。「証券取引法等の一部を改正する法律」の一部を取り出したものです。また,その実施の方法は,法律以外での各種基準で示されています。

日本版SOX法の影響

法律の一部だけを取り出して,あえて「日本版SOX法」というのは,これに対処するには,リスクの調査,業務の仕方の見直し,統制体制の整備,文書類の整備・維持などに多大な変革やコストがかかり,企業経営に大きな影響を与えるからです。

経営者が業務や情報システムを掌握するために,本来これらは整備されているのが当然だといえます。逆にいえば,日本版SOX法はこれらを行うための機会だともいえます。(後述参照)

米国のSOX法

このような取組みは,米国ではSOX法により実施されました。日本での取り組みはこれを参考にしているので「日本版SOX法」といわれるのです。その概要を示します。 (詳細)

COSO報告書

米国では1980年代前半に多くの企業の経営破綻が大きな社会・政治問題となりました。これに対処するために,「トレッドウェイ委員会組織委員会」(COSO)は,1992年に「内部統制-基本的枠組みのフレームワーク」(COSO報告書)を公表して、不正な財務報告を防止し発見するためのフレームワークとその方策を勧告しました。

SOX法(企業改革法)

さらに,2001年から2002年にかけて,監査法人も加担して巨額な粉飾決算を行ったエンロン事件やワールドコム事件が発覚しました。
 それを受けて,「Public Company Accounting Reform and Investor Protection Act of 2002:企業改革法」(提出者の名前からSarbanes-Oxley Act:SOX法という)が制定されました。
 この404条で,CEO/CFOが財務報告にかかわる内部統制が有効に行われていることを宣言・署名すること,監査人が内部統制の有効性について監査意見を表明することが定められています。
 なお,内部統制の具体的な実施に際しては,COSO報告書に基づいて行うこととされています。

SOX法と日本版SOX法の関係

このSOX法は,かなり厳格な内容だったので,企業や監査人に多大な負担がかかりました。それで,米国でも運用での緩和措置をとることが検討されるようになりました。
 日本版SOX法では,このSOX法をベースにしていますが,その後の米国での問題点やIT活用の発展などを考慮して,いくつかの修正をしています。


金融商品取引法

前述のように,金融商品取引法は「証券取引法等の一部を改正する法律」と「証券取引法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」の二つにより定められています

★証券取引法等の一部を改正する法律
http://www.fsa.go.jp/houan/156/hou156_02c.html
★証券取引法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律
http://www.fsa.go.jp/common/diet/164/01/hou/index.html

金融商品取引法の目的

第1条
 この法律は、企業内容等の開示の制度を整備するとともに、金融商品取引業を行う者に関し必要な事項を定め、金融商品取引所の適切な運営を確保すること等により、有価証券の発行及び金融商品等の取引等を公正にし、有価証券の流通を円滑にするほか、資本市場の機能の十全な発揮による金融商品等の公正な価格形成等を図り、もつて国民経済の健全な発展及び投資者の保護に資することを目的とする。

内部統制に関する条項

このように,全体は株取引の公正化を目的としたものですが,
  第24条(有価証券報告書の提出)
に内部統制に関する規定があります。

内部統制報告書(第24条の4の4)
(財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するための体制の評価)として,「財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するために必要なものとして内閣府令で定める体制について、内閣府令で定めるところにより評価した「内部統制報告書」を有価証券報告書と併せて内閣総理大臣に提出しなければならない」としています。
内部統制の監査(第193条の2)
(公認会計士又は監査法人による監査証明)として「内部統制報告書には、その者と特別の利害関係のない公認会計士又は監査法人の監査証明を受けなければならない」としています。

対象と適用時期

この法律は,原則として全上場企業を対象とし,「平成20年(2008年)4月1日以後に開始する事業年度から適用」されます。3月決算の企業では,2009年3月の決算報告に,代表者確認書,内部統制報告書およびその監査証明をつけることになります。


実施基準

金融庁「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準」
http://www.fsa.go.jp/singi/singi_kigyou/tosin/20070215.pdf

この実施基準は,内部統制の基本的枠組みを説明して,内部統制を実際に行うときの方法を示したものです。次の構成になっています。

Ⅰ.内部統制の基本的枠組み
 1.内部統制の定義(目的)
  (1)業務の有効性及び効率性
  (2)財務報告の信頼性
  (3)事業活動に関わる法令等の遵守
  (4)資産の保全
  (5)4つの目的の関係
 2.内部統制の基本的要素
  (1)統制環境
  (2)リスクの評価と対応
  (3)統制活動
  (4)情報と伝達
  (5)モニタリング
  (6)IT(情報技術)への対応
 3.内部統制の限界
 4.内部統制に関係を有する者の役割と責任
  (1)経営者
  (2)取締役会
  (3)監査役又は監査委員会
  (4)内部監査人
  (5)組織内のその他の者
 5.財務報告に係る内部統制の構築
  (1)財務報告に係る内部統制構築の要点
  (2)財務報告に係る内部統制構築のプロセス
  
Ⅱ.財務報告に係る内部統制の評価及び報告
 1.財務報告に係る内部統制の評価の意義
 2.財務報告に係る内部統制の評価とその範囲
  (1)財務報告に係る内部統制の有効性の評価
  (2)評価の範囲の決定
 3.財務報告に係る内部統制の評価の方法
  (1)経営者による内部統制評価
  (2)全社的な内部統制の評価
  (3)業務プロセスに係る内部統制の評価
  (4)内部統制の有効性の判断
  (5)内部統制の重要な欠陥の是正
  (6)評価範囲の制約
  (7)評価手続等の記録及び保存

Ⅲ.財務報告に係る内部統制の監査
 1.内部統制監査の目的
 2.内部統制監査と財務諸表監査の関係
 3.監査計画と評価範囲の検討
  (1)監査計画の策定
  (2)評価範囲の妥当性の検討
 4.内部統制監査の実施
  (1)全社的な内部統制の評価の検討
  (2)業務プロセスに係る内部統制の評価の検討
  (3)内部統制の重要な欠陥の報告と是正
  (4)不正等の報告
  (5)監査役又は監査委員会との連携
  (6)他の監査人等の利用
 5.監査人の報告
  (1)意見に関する除外
  (2)監査範囲の制約
  (3)追記情報

内部統制の目的と基本的要素

内部統制は,基本的に,目次に示した4つの目的を達成するためのプロセスであり,6つの基本的要素から構成されています。実施基準では,この有効性について経営者による評価及び報告並びに公認会計士等による監査を実施する際の方法及び手続についての考え方を示したものです。

内部統制の目的

内部統制を行う目的には次の4つがあります。単に財務報告の信頼性を向上させるだけでなく,企業の業務にも有効であることが示されています。

業務の有効性及び効率性
事業活動の目的の達成のため,業務の有効性及び効率性を高めること
財務報告の信頼性
財務諸表及び財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性のある情報の信頼性を確保すること
事業活動に関わる法令等の遵守
事業活動に関わる法令その他の規範の遵守を促進すること
資産の保全
資産の取得,使用及び処分が正当な手続及び承認の下に行われるよう,資産の保全を図ること

基本的要素

基本的要素とは,内部統制の目的を達成するために必要とされる内部統制の構成部分であり,内部統制の有効性の判断の規準となるものです。

統制環境
誠実性及び倫理観を尊ぶ組織文化や経営者の意向及び姿勢など,組織の気風を決定し,組織内のすべての者の統制に対する意識に影響を与えるとともに,他の基本的要素の基礎となり影響を及ぼす基盤です。
利益計上など財務報告に対する姿勢がどのようになっているか,取締役会や監査役などが適切な監視を行っているか,財務報告プロセスや内部統制システムに関する組織的,人的構成がどのようになっているかなど
リスクの評価と対応
組織の目標達成を阻害する要因をリスクとして識別,分析及び評価し,当該リスクへの適切な対応を行う一連のプロセスです。
財務処理での誤処理や不正が生じる危険を調べて,それによる影響を調べて対策を講じることなどがこれにあたります。
統制活動
経営者の命令及び指示が適切に実行されることを確保するために定める方針及び手続のことです。
明確な職務分掌や内部牽制のしくみ,継続記録の維持及び適時の実地検査等の活動等を整備し,これを組織内の各レベルで適切に分析及び監視することなどがあります。
情報と伝達
必要な情報が識別,把握及び処理され,組織内外及び関係者相互に正しく伝えられることを確保することです。
モニタリング
内部統制が有効に機能していることを継続的に評価するプロセスです。これにより,内部統制は常に監視、評価され,関係者に報告されたり改善是正されます。業務に組み込まれて行われる日常的モニタリングと業務から独立した視点から経営者や内部監査等を通じて実施される独立的評価があります。
ITへの対応
業務がITに大きく依存していることから,内部統制の目的を達成するために不可欠の要素として,内部統制の有効性に係る判断の規準になります。これは他の基本的要素と独立に存在するというよりも,それらに大きな影響を与える要素だといえます。これに関しては,後でさらに詳述します。

これら4つの目的はそれぞれに独立しているが,相互に関連しています。それぞれの目的を達成するには,すべての基本的要素が有効に機能していることが必要であり,それぞれの基本的要素は,内部統制の目的のすべてに必要になるという関係にあります。

COSO報告書との違い

実施基準はCOSO報告書をベースにしていますが,米国での実施後の状況や日本での経営環境を考慮して,いくつかの変更をしています。

基本的枠組みでの追加

内部統制の目的では「資産の保全」を加えており,基本的要素では「ITへの対応」を明示的に追加しました。
 「資産の保全」では,資産の取得,使用及び処分が正当な手続及び承認のもとに行われることが重要であることから,独立させて1つの目的として明示したのです。内部統制において,監査役が「業務調査権」や「財産調査権」という権限を十分に行使できる効果もあります。
 「ITへの対応」は,COSO報告書公表後のIT環境の飛躍的進展により,ITが組織に浸透した現状に合わせて,独立した要素としたのです。
 なお,COSO報告書では「構成要素」であったものを,これらの要素は例示であることを明確にしたいことから「基本的要素」としていています。

対象や手続の緩和

米国では,SOX法の実施で多大な作業・費用が発生し,経営に支障を与えるケースも発生しました。そのような経験から,実施基準では,企業や監査人に過度な負担になることを避け,現実に実施しやすいように,緩やかな基準になっています。

トップダウン型のリスク・アプローチの活用
財務報告において重大な虚偽の表示につながるリスクに着眼して,必要な範囲で業務プロセスに係る内部統制を評価すればよいとしました。金額的にも質的にも軽微なものは対象にしなくてもよいとしたのです。
内部統制の不備の区分
米国では不備を「重要な欠陥」「重大な不備」「軽微な不備」の3つに区分したために,財務報告への影響等についての評価手続が複雑になっていることから,「重要な欠陥」と「不備」との2つに区分することにしました。
ダイレクト・レポーティングの不採用
米国では,内部統制の評価を経営者が行う以外に,監査人も直接に評価監査するダイレクト・レポーティング(直接報告業務)が義務づけられいますが,ここでは,監査人は,経営者が実施した内部統制の評価について監査をすればよいとしました。
内部統制監査と財務諸表監査の一体的実施
米国では,信頼性を高めるために,内部統制監査と財務諸表監査は異なる監査人が行うこととしていますが,ここでは,同一の監査人でもよいとしています。
これにより,内部統制監査で得られた監査証拠及び財務諸表監査で得られた監査証拠は,双方で利用することが可能となり,効果的かつ効率的な監査の実施が期待できるからです。また,内部統制監査報告書を財務諸表監査報告書と合わせて記載することを原則としました。

内部統制報告書に必要な文書

実施基準には明確な基準は示されていないので,どのような文書をどのような形式で作成するかは企業に任されています。ところが実施基準の付録として,「業務の流れ図」「業務記述書」「RCM(リスク・コントロール・マトリックス)」が掲げられており,この3つの文書が標準的な文書だと一般にいわれています。

(拡大図) (拡大図) (拡大図)
業務の流れ図(例)業務記述書(例)RCM(例)

金融庁「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準(公開草案)」2006年11月
 http://www.fsa.go.jp/news/18/singi/20061121-2.pdf より

業務の流れ図
財務への影響が大きい業務について,そのプロセスと責任部門を軸にして,業務での処理の流れを図表にします。これにより,業務の大まかな理解ができます。特に,手作業と情報システムとの関係を明確にすることが大切です。
業務記述書
流れ図だけでは十分な説明ができないので,業務記述書で明確にします。実際の業務分掌書や職務記述書などの規定類と合致していることが求められます。
RCM(リスクコントロール・マトリックス)
各業務について,
  ・誤りや不正が生じるリスクを列挙し,
  ・それをどのような方法で防いでいるのか,
  ・それは実施要件のどれに該当するか,
  ・実施した結果の評価はどうだったか
を,一覧表の形式にします。

「あるべき姿(To Be)」ではなく,「現状(As Is)」を記述するのだということに注意する必要があります。ここでの現状とは,内部統制報告書提出時点のことです。

この3つの文書のうち,最も重要で作業が大変なのはRCMです。


ITへの対処(IT統制)

ここでは実施基準での「ITへの対処」に関する事項を掘り下げます。
 「Ⅰ.内部統制の基本的枠組み」では,基本的要素として「ITへの対処」を追加した理由とIT統制の考えかたを示しています。
 「Ⅱ.財務報告に係る内部統制の評価及び報告」では,評価対象とするシステムの決定方法とIT統制の評価項目を示しています。
 「Ⅲ.財務報告に係る内部統制の監査」では,監査人がIT統制を評価する検討項目を示しています。
 なお,実施基準では「情報システム」とは「情報を処理及び伝達する仕組み」としており,ITだけでなく,手作業での処理も含むし,それを取り巻く組織や業務も含んでいます。それに対して「IT」はコンピュータ等の利用を指しています。

「IT環境への対応」と「ITの利用及び統制」

「ITへの対応」を「IT環境への対応」と「ITの利用及び統制」に区分しています。

IT環境への対応
組織が活動する上で必然的に関わる内外のITの利用状況のことです。例えば次のような項目です。
IT環境への対応は,個々の業務プロセスの段階において,内部統制の他の基本的要素と一体となって評価されます。
ITの利用及び統制
ITの利用は,他の基本的要素の有効性を確保するために必要です。
そのITの統制目標は,
 ・有効性及び効率性:情報が業務に対して効果的、効率的に提供されていること
 ・準拠性:情報が関連する法令や会計基準、社内規則等に合致して処理されていること
 ・信頼性(正当性、完全性、正確性):
   情報が組織の意思・意図に沿って承認され、漏れなく正確に記録・処理されること
 ・可用性:情報が必要とされるときに利用可能であること
 ・機密性:情報が正当な権限を有する者以外に利用されないように保護されていること
を高めることにあります。
ITの統制の構築として,
 ・IT全社的統制
 ・IT全般統制
 ・IT業務処理統制
の3つに区分しています。

IT統制の3区分

全社的統制

財務報告に係る全社的な内部統制に関する評価項目の例として,次の事項をあげています。

IT全般統制

ITに係る全般統制については,例えば次のような点において有効に整備及び運用されているか評価します。

IT業務処理統制

ITに係る業務処理統制が,適切に業務プロセスに組み込まれ有効に整備及び運用されているかを評価します。次の例をあげています。


IT統制ガイダンス

経済産業省「システム管理基準 追補版(財務報告に係るIT統制ガイダンス)」2007年3月
http://www.meti.go.jp/press/20070330002/systemkijun-tsuiho.pdf

システム管理基準(sec-houki-kijun)とは,企業でのシステム監査を行うときに,監査の判断尺度として用いるべき基準として,2004年に策定されていました。
 経営戦略に沿って効果的な情報システム戦略を立案し,その戦略に基づき情報システムの企画・開発・運用・保守というライフサイクルの中で,効果的な情報システム投資,リスクコントロールを適切に整備・運用するための実践規範になっています。
 この「IT統制ガイダンス」は,「実施基準」の「ITへの対応」に関して,システム管理基準を増補したものです。「ITへの対応」への取組み方法を具体的な例をあげて説明したものです。しかし,これは例示であり,それに従うべきだとか最善な方法だというのではありません。

すなわち,実施基準が日本版SOX法遵守のための基本的な規範を示していることに対して,IT統制ガイダンスは,対処方法を具体的に例示したものになっています。

IT統制ガイダンスの目次は次の通りです。

Ⅰ章 本追補版の構成と用語について
●理論編
Ⅱ章 IT統制の概要について
1. 財務報告とIT統制
(1)金融商品取引法に求められている
   内部統制とITの関係
(2) 財務報告とIT統制の関係
2. IT統制の統制項目
(1) IT全社的統制
(2) IT全般統制
(3) IT業務処理統制
Ⅲ章 IT統制の経営者評価
 1. IT統制の評価のロードマップ
 2. 評価の決定と対象となるITの把握
 3. IT全社的統制の評価
 4. 業務プロセスに係るIT統制の評価
 5. IT統制の有効性の判断

●理論編
Ⅳ章 IT統制の導入ガイダンス(IT統制の例示)
1. ガイダンスの使い方
2. IT全社的統制
3. IT全般統制
4. IT業務処理統制
5. モニタリング

付録
1.システム管理基準追補版と他の基準との対応
2.システム管理基準の統制目標の使い方
  システム管理基準の管理項目と統制目標の対応(例)
3.ITコントロールとITの具体的な技術の例示
4.評価手続等の記録及び保存
5.サンプリング
6.リスクコントロールマトリクスの例
    IT全般統制評価記述書
    IT全社的統制評価記述書
    IT業務処理統制評価記述書

第Ⅱ章と第Ⅲ章は理論編で,IT統制についての基本的な枠組みを提供しています。
 第Ⅳ章は導入編で,IT統制の3区分であるIT全社的統制,IT全般統制,IT業務処理統制について,IT統制の例を具体的かつ詳細に説明しています。
 付録では,関連する各種基準との対比や,リスクコントロールマトリクスの記述例など実務作業での例示を掲げています。

理論編の例

「IT全般統制」を例にすると,IT統制ガイダンスでは,実施基準を次のように詳細化・具体化しています。

システムの開発、保守に係る管理

第Ⅱ章:統制項目の例
  ・ ソフトウェアの開発・調達
  ・ IT基盤の構築
  ・ 変更管理
  ・ テスト
  ・ 開発・保守に関する手続の策定と保守

第Ⅲ章:評価の観点

システムの運用・管理

第Ⅱ章:統制項目の例
  ・ 運用管理
  ・ 構成管理(ソフトウェアとIT基盤の保守)
  ・ データ管理

第Ⅲ章:評価の観点

内外からのアクセス管理等のシステムの安全性の確保

第Ⅱ章:統制項目の例
  ・ 情報セキュリティフレームワーク
  ・ アクセス管理等のセキュリティ対策
  ・ 情報セキュリティインシデントの管理

第Ⅲ章:評価の観点

外部委託に関する契約の管理

第Ⅱ章:統制項目の例
  ・ 外部委託先との契約
  ・ 外部委託先とのサービスレベルの定義と管理

第Ⅲ章:評価の観点

導入編の例

ここでは,各統制項目について,【統制に関する指針】【統制目標の例】【統制の例と統制評価手続の例】を示しています。
 次は,「4.IT業務処理統制」「(1)入力管理(入力統制)-入力データの作成から保管等までの情報システムのデータの管理-」の例です。

統制に関する指針

業務プロセスにIT を利用する場合は、入力する元データの作成、入力の実施、確認、入力した元データの保管、廃棄の管理を実施する。入力では、情報システムに対する直接の手作業で実施される場合とフロッピー、CD 等の磁気媒体、EDI 等のデータ伝送、インターネットを経由してくる場合がある。データの入力で誤りや不正があると、このデータから処理され生成される財務情報に誤りや不正が発生することになる。そのため、入力されたデータが重複なく、正しいデータのみが入力さ れるような統制が必要である。

統制目標の例

4-(1)-① 入力管理ルールを定め、遵守すること
⇒(システム管理基準 Ⅳ運用3(1))
4-(1)-② データの入力は、入力管理ルールに基づいて漏れなく、重複なく、正確に行うこと
⇒(システム管理基準 Ⅳ運用3(2))
4-(1)-③ データの入力の誤り防止、不正防止、機密保護等の対策は有効に機能すること
⇒(システム管理基準 Ⅳ運用3(4))
4-(1)-④ 入力データの保管及び廃棄は、入力管理ルールに基づいて行うこと
⇒(システム管理基準 Ⅳ運用3(5))

統制の例と統制評価手続の例

 リスクの例統制の例統制評価手続の例

-(1)
-①
財務情報の元となる
データの入力に管理
ルールがなく誤りが
発生,もしくは不正な
入力が行われる。
入力データの作成,授受,検証,
入力の実施,入力後の確認,保
管等,情報システムヘのデータ
入力に伴う一連の作業について
手順,検証方法,承認方法を入
力管理ルールとして明文化す
る。
入力データの作成,授受,検証,
入力の実施,入力後の確認,保
管等,情報システムヘのデータ
入力に伴う一連の作業について
手順,検証方法,承認方法を入
力管理ルールとして明文化して
いるか確かめる。

-(1)
-②
財務情報の元となる
取引データの入力に
過不足が発生する。
入力管理ルールに記載されてい
る手順に従い,入力データに欠
落,二重入力等の誤りが発生し
ないように制御,検証をする。
入力管理ルールに記載されてい
る手順に従い,入力データに欠
落,二重入力等の誤りが発生し
ないように制御,検証する機能
があることを確かめる。

-(1)
-②
財務情報の元となる
取引データの入力に
誤りが発生,もしくは
不正な入力が行われ
入力管理ルールに記載されてい
る手順に従い,正確に入力が行
われるように制御,検証をする。
入力管理ルールに記載されてい
る手順に従い,正確に入力が行
われるように制御,検証する機
能があることを確かめる。

-(1)
-③
財務情報に係る情報
システムを入力する
際に不正な入力が行
われる。
誤り防止,不正防止及び機密保
護等のために,正当な承認に基
づいて入力データの作成,取扱
い等をする。
入力データの作成,取扱い等は
正当な承認に基づいて実施され
ていることを確かめる。

-(1)
-④
財務情報の紛失,盗
難,漏えいが発生す
る。
入力データの紛失,盗難,漏え
い等を防止するため,保管及び
廃棄は入力管理ルールに基づい
て行う。
入力データの保管及び廃棄は入
力管理ルールに基づいているこ
とを確かめる。

その他の法規・基準

会社法

2005年7月成立,2006年12月改正 (http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H17/H17HO086.html)

この法律は,会社の設立,組織,運営及び管理について定めるものです。
 有限会社の株式会社への統合,出資下限額の撤廃,類似商号規制の緩和,株主代表訴訟制度の合理化など,大きな改正が行われましたが,そのなかで,すべての大会社では,内部統制システムの構築の基本方針を決定することを義務づけています。

会社法と日本版SOX法を比較すると,次の点が異なります。

しかし,両者は次の類似点を持っています。

コンプライアンス
法令順守と訳されますが,法律だけでなく,社会慣行,社内規定なども含む決まりごとに正しく従っていること
ITガバナンス
経営者が自社のIT活用について把握しており,適切な運営をしていること。これを実現するには,ITの現状や将来計画が可視化(経営者が理解しやすいように文書化や図表化する)されている必要があります。

COBIT for SOX

IT Governance Institute「COBIT for SOX 2nd Edition」 日本語版「サーベインズ・オクスリー法(企業改革法)遵守のためのIT統制目標」(2007年1月)
http://www.isaca.org/Template.cfm?Section=Home&CONTENTID=29776&TEMPLATE=/ContentManagement/ContentDisplay.cfm

自社のITガバナンスの成熟度レベルを認識し,そのレベルを向上させるための基準として,COBIT(Control Objectives for Information and related Technology)があります。(参照:std-cobit)
 「COBIT for SOX」は,SOX法への対処のために,COBITを特化したものです。
 目次は次の通りですが,全体の2/3が参考資料であり,IT分野でのSOX法対処のガイドラインとして用いられています。日本版SOX法への対処にも重要な参考文献になっています。

経営者向け要約
信頼できる財務報告の基礎
  IT統制に関する指針の必要性
  IT統制の把握
  IT統制– 特有な課題
  IT統制に関するPCAOBの指針
  ITシステムの統制19
企業改革法遵守のための変化に関する人的要素の管理
  変化に対するコミットメント
  現在の状況に対する評価
  障害の克服
基本原則の制定
  COSOの定義
  COSOのITへの適用
ITコンプライアンスのためのロードマップ
  企業改革法の遵守
参考資料
A 企業改革法入門
B COSOとCOBIT
C IT全般統制
D 業務処理統制(アプリケーション統制)
E アプリケーションとテクノロジ層の一覧表の例
F プロジェクト見積りツール
G 固有リスクの評価と統制の優先順位付け表
H 統制の文書化とテストのテンプレートのサンプル
I 不備の評価決定手順の例
J スプレッドシートのサンプルアプローチ
K 学んだ教訓
L SAS70調査報告書を用いる際の課題
M 重要な会計アプリケーションにおける職務分離
N 図表リスト
参考文献

ITIL

情報システムの改訂を正しく行うことやトラブル発生時に適切な対処をすることは,ITの内部統制として重要です。
 運用保守管理をITサービスマネジメントといいますが,それのベストプラクティスを示す基準にITIL(Information Technology Infrastructure Library)があります。これは国際規格ISO 20000なっています。(参照:std-itil)


ITとの関連

現在,財務に関するデータ処理の多くは情報システムになっていますので,情報システムの内部統制が必要になります。実施基準などでは,情報システムの新規構築や見直しが必須だとはいっていません。しかし,以下に示すように,内部統制を円滑に行うには,それらを行うことが効果的です。
 本来は,このようなことは,日本版SOX法に関係なく,情報システムの運営に必要なことなのです。日本版SOX法を情報システムを再整備する機会だととらえることもできるのです。

新規のシステム化が望まれる

業務を情報システム化することにより,内部統制がしやすくなります。これまでに手作業や個人的に表計算ソフトなどで行っていた業務を情報システム化することが望まれます。

業務ルールが明確になる
情報システムは業務の仕方をルール化したものです。例えば,入出金をしたときは,それらのデータを情報システムで決められた手段で入力することが義務付けられます。情報システム化した分野では,標準化が進みますし,遵守強制力が高くなります。
データの正確性が確保される
データ入力時に,明示されたチェックルールにより,誤ったデータが入力されるのを防げます。また,加工プロセスでの誤処理を防げます。
統制が容易になる
販売での売上データは会計での売掛金データとなるように,データの信頼性を検査するには多部門にわたる作業が必要になりますが,情報システムではデータの受け渡しが一貫した方法で自動的に行われるので,データのトレーサビリティを把握することが容易になります。
また,アクセスのログを収集・分析することにより,ルールに遵守していることを検証しやすく信頼性の保証がしやすくなります。

既存システムの再整備が望まれる

財務に関係する情報システムは会計システムだけではありません。会計システムの売掛金や買掛金が販売システムの売上データや購買システムの仕入データと連携しているように,ほとんどすべてのシステムが正しく構築され運用されていることを立証することが求められます。
 それらの情報システムが統制ツールとして有効に稼動していることを立証するには,システムの構成,データの流れ,データの構造などを,関係者にわかりやすい形式で文書化する必要があります。これらは本来,システム構築するときに整備しておくべきことですが,長年の改訂などを厳密に反映していないことが多いのです。
 また,データのトレーサビリティを把握するための記録も必要になりますが,以前のシステムでは,そこまで考慮していないシステムも多くあります。
 しかも,情報システム内部の正確性だけでなく,入力されべきデータが必ず入力されていること,オーソライズした情報システム以外の手段でデータ処理が行われていないことなど,情報システム以外の業務まで検討しなければなりません。

情報セキュリティ対策が求められる

情報システムが正確に運用されるには,自然災害,機器の故障,過失,犯罪などの脅威から情報システムが保護されていること,すなわち,情報セキュリティ対策が適切に行われていることが必要です。
 これも,通常のセキュリティ対策だけでなく,アクセスする権限を持つ正規の利用者による過失や犯罪からの保護が大きな要素になりますし,セキュリティ対策が適切に行われていることを関係者に説明できることが求められます。

文書管理にITの利用が必要

内部統制の体系を作成するには,多くの文書化が必要になります。特に重要なのが,リスクコントロールマトリクスの作成と維持運営ですが,それには主なものだけでも,
  業務プロセスフローを作成して,それに伴うリスクを列挙する。
  各リスクと財務諸表の信頼性確保要件との関係を明確にする。
  各リスクを防ぐ手段(コントロール)を列挙する。
  各コントロールのポイント,タイプの区分をする。
  各コントロールを行う頻度,担当者,規定類,確認書類を整備する。
などを,関係者にわかりやすいように可視化して整備すること,その実施状況を記録することが必要になります。

これらの列挙項目に抜けがないか,相互の関連で矛盾がないか,運営でのログをどう記録するか,さらにこれらの参照を容易にするにはどうするかなどを考えると,単に表計算ソフトを用いて整理するのでは無理があり,専用のツールが必要になります。そのためのツールも市販されていますが,実際に使いやすくするためには,いろいろな工夫が必要になります。