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PHSの歴史


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(携帯電話全般に関しては、 「携帯電話の歴史」を参照されたい。)


PHSとは

PHS(Personal Handy-phone System)は、簡便型の携帯電話の一つといえるが、技術的には大きく異なる点がある。携帯電話が自動車電話から発展したのに対して、PHSは一般家庭電話機で本体から受話器をコードレスにしたコードレス電話から発展したものである。すなわち、(仮想の)電話機本体を電話局において、個人が受話器だけをもっているという発想である。この技術は日本で開発し発展した。


携帯電話の基地局 (拡大図)

PHSの基地局 (拡大図)
出典: Wikipedia「基地局」

携帯電話もPHSも無線を用いるので、無線中継基地局が必要になる。携帯電話は出力が大きく、一つの基地局は数kmをカバーする(マクロセル方式)のに対して、PHSは出力が小さく、500m程度をカバーする(マイクロセル方式)比較的簡単で安価な基地局を多数設置する方式を採用している。また、通信方法では、携帯電話(デジタル)はパケット方式で回線を共有するが、PHSでは回線を占有する方式を採用している。
 そのため、携帯電話と比較して、PHSは次のような長所・短所をもつ(当時の比較であり、その後は差異が減少した)。

国の統計などでは「携帯電話・PHS」として両者を区別している。その理由は、次の二つである。あくまでも法律の都合であり、利用面や技術面からの区別ではない。


PHSの歴史


PHS加入者数の推移
出典: 電気通信事業者協会「携帯電話・PHS契約数」より加工作図

PHSの開始と普及

  • 1993年 札幌・東京でPHS実験
  • 1995年 PHSサービス開始
    NTTパーソナル(1998年にNTTドコモへ移管)
    DDIポケット(KDDが母体)
    アステル(電力会社等が母体)
  • 1998年 PIAFS開始
    データを送受信する回線を占有して接続する方式。64kbps。安定した通信ができ音声の品質もよい

PHSは、サービス開始直後は急速に普及した。サービス開始以降2年半の1998年の加入数は700万人近くになった。これは、それまでのポケベル利用者がPHSに移行したからである。PHSは携帯電話と比較して料金が安いこと、ポケベルとの連携機能があったことなどから、特にポケベル愛好層である女子高生がPHSに乗り換えることが多かった。
 彼女たちはPHSを「ピッチ」と呼んだ。そもそもPHSの名称が法令の正式名になったのは1998年であり、それまでは「簡易型携帯電話」といわれていた。

PHSの低迷

PHSは、予想したほどには普及しなかった。1998年のピーク時でも700万人弱であり、当時の携帯電話加入数3,150万人には遠く及ばなかった。携帯電話からの乗り換えが少なかっただけでなく、携帯電話との競争に負けてしまったのである。その原因として、
・携帯電話各社が敏感に反応して安売り競争になり、「PHSが安価」の利点が減少した。
・基地局の設置が不十分で「つながらない」苦情が続出した。
などがある。PHSの特徴を生かしきれないうちに、携帯電話が多機能化してしまったのだ。
 例えばDDIポケットでは、次のような対策を打ち出して持ち返すように思えたが、結局は挽回することができなかった。

  • 2001年 DDIポケット「AirH゛」開始
    PHS回線を利用したパケット通信による、定額制(つなぎ放題)のモバイルデータ通信サービス。後に「AIR-EDGE」に名称変更。
    かえって「品質が安定する」などのPHSの特徴を失った。
  • 2002年 DDIポケット、通信速度128Kbps対応、基地局の大増設計画
    設備投資が不十分のまま、かえって経営財政の悪化を招いた。

PHSサービスの終了

2000年代中頃になると、PHSの劣勢が顕著になり、サービス事業者の経営も悪化した。そして、次々に撤退を表明し、関連携帯電話への移行を積極的に進めることになり、2010年には商用としてのPHSサービスは事実上終了した。

  • 2005年 DDIポケットがウイルコムに吸収
  • 2005年 ドコモ、アステルがPHSから撤退を表明
  • 2006年 アステル、PHSサービス終了
  • 2008年 ドコモ、PHSサービス終了
  • 2010年 ウィルコムが会社更生手続
    事実上、従来PHS事業は消滅

しかし、医療分野や災害対策では、PHSは携帯電話より優れた特徴をもっている。限定された用途では、現在でも利用されている。

次世代PHS

次世代PHSとは

従来型のPHSは終了したが、次世代のPHSが注目されるようになった。  次世代PHSでは、XGP(eXtended Global Platform)という方式を用いる。XGPは、データ伝送スピードは最高で100Mbpsで、従来PHSの欠点とされていた高速移動にも時速300km/hまで対応、高周波数帯を有効活用して、大都市での過密な通信にも対応できる。
 また、XGPはモバイルブロードバンド通信規格の勧告「ITU-R M.1801」に合致しており、モバイルWiMAXと連携することができる。そのため、次世代携帯電話でも標準採用される通信規格であるLTE(Long Term Evolution)を採用できる。
 このように、次世代PHSは、現行PHSのメリットをそのまま引き継ぎながら,さまざまな高速化技術を盛り込んでおり、携帯電話との競争が再現するといわれている。


現行PHSと次世代PHSの違い (拡大図)
出典: 日経NETWORK ITpro「次世代PHSとは」

次世代PHSの実現

次世代PHSには、日本ではウイルコムが進めてきた。2009年には山手線内部や京阪神で実験を行った。ところが、2010年にウイルコムが経営破たんになった。
 ウイルコム本体は、従来PHS事業だけになるが、100%減資により消却させ、既存の基地局と次世代PHS事業は、ソフトバンク、アドバンテッジパートナーズ(投資会社)が設立する新会社へ移管することになった。それで、事実上はソフトバンクが次世代PHSを運営することになる。

話は変わるが、PHSの最大利用国は中国で、1億人近い加入者が存在する。中国でも従来のPHSは不調であり、2011年には終了して、次世代PHSへ移行する計画である。中国の最大手携帯電話事業者は中国移動通信(チャイナモバイル)である。
 高速通信方式のLTE(Long Term Evolution)にはFDD(周波数分割多重)方式とTDD(時分割多重)方式があり、TDDによるLTEを「TD-LTE」という。TD-LTEは、ADSLのように上りと下りの通信速度を変えることにより回線を有効に使うことができるのが特徴である。音声を主とする電話では、上下とも同じ速度が望ましいので、世界での携帯電話はTDDを採用していることが多い。ところが中国移動通信では、電子メールやインターネット利用の観点からTD-LTEを採用している。

ソフトバンクは、市場の大きい中国でのビジネスと安価な基地局を入手するために、次世代PHSではTD-LTEを採用するとしている。