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情報システム部門のありかた,経営情報企画部門,アウトソーシング,エンドユーザ

情報システム部門の戦略部門化と
アウトソーシングに関する考察

作成 2000.8.15

東京経営短期大学紀要 第9巻 pp.237-239. 2001年3月

1 はじめに

情報システム部門は,システム開発やコンピュータの運用を主任務とするDP(Data Processing)部門から,経営戦略と情報技術を統合する戦略企画部門であるIT(Information Technology)部門[注1]へと変貌するべきことは,かなり以前からいわれていた。そして,情報システム部門をIT任務に専心させるためにも,DP業務をアウトソーシングするのが適切であるといわれている。

情報システム部門のアウトソーシングも,かなり以前から行なわれてきたが,最近は発注元ではリストラクチャリングやBPR(Business Process Reengineering)が進行し,受注先ではアウトソーサやASP(Application Service Provider)などの体制も整ってきたので,さらに急速に普及すると予測される。

注1 SISの提唱者であるC.Wiseman は,このような任務を持つ情報システム部門をIM(Information Management)部門と呼んでいる(C.Wiseman, "Strategic Information Systems“,土屋守章,辻新六訳『戦略的情報システム』,ダイヤモンド社,p.373, 1989)が,日本ではIT部門のほうがポピュラなのでそれを用いる。

従来の情報システム部門のIT部門化やアウトソーシングは,情報活用で先行していた企業が主であり,それなりの信念を持ち準備を整えて行なってきたので,成功した例が多く発表されている。しかし,最近の風潮により,安易なアウトソーシングが行なわれて情報システムの運営に問題が起こる懸念があるし,IT部門にしたもののIT機能が有効に機能しない危険も考えられる。

本論文では,このような動向において,安易なアウトソーシングやIT部門化が陥りそうな影の部分を検討する。当然ながら成功例は喧伝されるが失敗例や成功の裏にある矛盾は公表されない。以下の考察は,私個人の経験や見聞に基づく主観的な要素が高いことをお断りしておく。


2 歴史的考察

2.1 DP部門からIT部門へ

ここでは,情報システム部門の業務を,DP業務(システム開発やコンピュータの運営を主体とする業務)とIT業務(経営戦略と情報技術を統合する戦略企画的な業務)に大別する。

情報システム部門が前者だけではなく,後者の業務を重視する必要があることは,コンピュータが企業に本格的に導入された1960年代からもいわれていたが,1980年代中頃に普及したSIS(Strategic Information System)のコンセプトにより,戦略的に情報技術を活用するために「DP部門からIT部門へ」変貌すべきことが強く認識されるようになった。

それを実現するためには,経営の観点から情報システムを統括することが必要とされてCIO(Chief Information Officer)を設置したり,情報システム部門を経営戦略部門としてIT業務に特化するために,DP業務をアウトソーシングしたりするようになってきた。

経営と情報との関係は,1990年代前半のBPRや1990年代末期のeビジネスなどがあるが,それらも情報システム部門がDP部門からIT部門へと変貌することを求めている。

2.2 EUCの発展と情報システム部門のアイデンティティの喪失

情報システムの歴史は,コンピュータ利用の大衆化すなわちEUC(End-user Computing)の発展の歴史であり,逆にいえば,情報システム部門のアイデンティティ喪失の歴史であるといえる。

(1)TSS

従来は,エンドユーザは情報が必要になると,情報システム部門に依頼して出力してもらっていた。それが,1970年代後半になると,TSS(Time Sharing System)技術が普及した。これは,多数の端末をコンピュータに接続して,コンピュータを時分割に共同利用する形態である。これにより,エンドユーザが端末からコンピュータを利用できるようになった。特に,基幹業務系システムで収集蓄積したデータを,エンドユーザが使いやすい形式のファイルにして公開し,エンドユーザにも習得しやすい簡易言語を利用して,任意に検索加工する情報検索系システムが普及した。すなわち,プログラムを作成してコンピュータを操作し,必要な情報を取り出すという知識が,情報システム部門特有の知識ではなくなったのである[注2]。

注2 J.Martin は1980年頃にインフォメーション・エンジニアリングを提唱したが,このようなエンドユーザがプログラムを作って処理することを「ユーザを運転席に」「プログラマなしのシステム開発」などと表現している(J.Martin, "An Information Systems MANIFESTO", 成田光彰訳『管理職のための情報戦略』,日経マグロウヒル,p.57, 1986)。

(2)パソコン

1980年代になるとパソコン(パーソナル・コンピュータ)が普及した。小規模ながらエンドユーザが自分が所有し自由に使えるコンピュータを入手したのである。エンドユーザは,パソコンを用いて小規模なシステムを構築することすらできるようになった。また,局所的な分野ではあるが,情報システム部門よりもコンピュータ知識が高いエンドユーザが出現した。コンピュータを持ちコンピュータ知識が高いという情報システム部門のアイデンティティが喪失した。

(3)SIS

1980年代中頃からのSISにより,CIOをリーダとして主要利用部門の部長クラスをメンバとする経営情報企画委員会のような組織ができて,それが情報化の方針,開発の優先順位,予算の評価をするようになった。情報システム部門は委員会の事務局として,メンバに指示するのではなく,メンバの決定を実施する立場になったのである。自部門の固有任務を他部門の指揮下におく例は,通常の部門では異例なことであり,責任回避であるともいえる。

(4)CSS

1980年代末から1990年代にかけて,CSS(Client-Server System)が普及した。それにより,ハードウェアやネットワークなどの情報資源の大部分が,情報システム部門ではなく利用部門に設置されるようになった。しかも,CSS環境ではサーバやLANが重要な位置付けになるが,その運用管理を情報システム部門が遠隔管理するのは困難であり,直接的な管理は利用部門に依頼することになった。コンピュータや情報システムの管理が情報システム部門からエンドユーザへと移ったのである。

(5)グループウェア

CSS環境では,電子メールや電子掲示板などのグループウェアが普及した。従来のコンピュータがフォーマット化したデータをレコード単位に検索加工するのにたいして,グループウェアではファイル単位で加工をしないのが特徴であり,システム構築も特別な知識能力を必要とせず,エンドユーザでも比較的容易に構築できる。しかも,電子メールや電子掲示板は,個々のエンドユーザが自主的に情報を発信しなければ存在できない利用形態である。すなわち,利用部門が情報システムを自ら構築し運用するようになったのである。

(6)インターネット

1990年代中頃から急速に普及したインターネットは,情報システム部門とエンドユーザの関係にも大きな影響を与えた。従来の情報活用は,企業が計画し実施してはじめて利用できたのであるが,インターネットは企業が意図しなくても個人のレベルで情報発信・受信ができる。このような環境では,インターネットに接続したパソコンの利用が通常の利用形態であり,社内システムのほうがむしろ特殊な利用形態なのだともいえる状況になってきた。

2.3 アウトソーシングの変遷

情報システム部門のアウトソーシングは,かなり以前から行なわれてきたが,その目的や概念は時代とともに変化してきた。

(1)1960年代(あるいは現在も) 規模の経済性によるアウトソーシング

昔はコンピュータは高価で活用するには特殊な技術うを必要とした。それで,自社にコンピュータや情報システム部門を置けないので,外部の計算センターを利用した。いわば,規模の経済性によるアウトソーシングである。現在でも中小企業ではこの理由によるアウトソーシングが行なわれている。

(2)1970年代〜1980年代 情報子会社へのアウトソーシング

コンピュータ導入当初から,システム開発やコンピュータオペレーションでの外注はむしろ通常の形態であったが,1970年代になると銀行のオンラインシステム構築など大規模なシステム構築が行なわれるようになり,要員確保や就労管理の都合等により,情報子会社を設立して,そこにアウトソーシングするようになった。

1980年代になると製造業が本業不振になり,多角化を目的として情報子会社を設立する動きが盛んになった。1970年代の子会社化は親会社のシステム化が目的であったが,この時代では外部進出による収入確保が期待されるようになった。この頃,アウトソーシングという用語が普及したが,日本では子会社にアウトソーシングする例が多かった。しかも,一部の子会社を除けば外部への進出は困難であり,親会社の関係会社がそれまで外注していた業務を取り込むことが多く,アウトソーシングというよりもインソーシングであるというほうが適切な例も多い。

(3)1980年代末〜現在 戦略的アウトソーシング

1980年代中頃からは,SISの概念とともに,情報システム部門をIT部門化することが必要であるとされ,それを実現するためにDP業務を積極的に外部へ出すことが行なわれた。それまでは人事異動を伴わないのが日本型アウトソーシングの特徴としてあげられていた[注3]が,1990年代中頃からは情報システム部門要員の移籍も含めたアウトソーシングが増大している。

さらに1990年代後半からは,単に自社業務を社外に出すのではなく,外部の優れた情報技術や運用環境を社内経営資源として活用することを目的とした戦略的なアウトソーシングが主流になってきた。

注3 島田達巳,『アウトソーシング戦略』日科技連出版社,pp.28-31, 1995.

2.4 最近のアウトソーシング加速要因

最近は,情報システム部門をアウトソーシングする要因がさらに多くなってきた。その代表例としてERP(Enterprise Resource Planning)パッケージとASP(Application Service Provider)について考察する。

(1)ERPパッケージ

従来のシステム開発では,利用部門や社外要員の参加はあるが,少なくともまとめ役は情報システム部門であった。多くのアイデンティティを喪失したが,自社のシステムについては情報システム部門が最もよく知っているというアイデンティティは確保していた。

ところが,ERPパッケージによるシステム開発では,利用側企業の業務担当者であるエンドユーザとベンダ側の技術者だけで開発され維持できる。システム開発プロジェクトに情報システム部門も参加しているが,それはIT業務の一環として参加しているか,あるいは既存システムとの関係や慣習的な理由によるのであり,必ずしも不可欠な存在ではない。いずれにせよ,構築したシステムについては,情報システム部門がエンドユーザやベンダよりもよく知っている理由はないのである。

また,ERPパッケージによるシステムでは,バージョンアップなどでの継続性のために,利用企業側で勝手な改訂をせずにベンダが改訂作業をする契約がなされることが多い。情報システム部門はシステムを知っているにせよ,エンドユーザから改訂要求があっても,システムを勝手に改訂できない。そうなると,情報システム部門はエンドユーザとベンダの電話交換手のような立場になってしまう。そのような情報システム部門を存続させる必要はない。

(2)ASP

ERPパッケージはCSS環境で運営されることが多く,しかも,グループウェアを目的としたCSS環境とはかなり異質の環境を要求する。そのために,ERPパッケージの導入とともにCSS環境を大改訂することになる。そのときに,それらの機器管理をアウトソーシングすることも多くある。

最近はそのような業務を受けるASPが出現してきた。そうなると,未だ対象業務は各ASPが専門とする部分的な業務であり,全社業務全体を請け負うASPは少ないが,急速に対象範囲を拡大するであろう。そうなると,情報システム部門が最後の砦としていたメインフレームも撤去されてしまうのである。既にインターネットによる商取引,特にBtoCの分野では,情報システム部門がほとんど関与せずにASPによる開発・運用が行なわれている。


3 IT部門化・アウトソーシングの問題点

従来,アウトソーシングをしてきた企業は,情報システム活用の分野で優れていた企業が多い。公表されている事例によれば,情報システム部門もIT部門になるように体制を整えてきたし,アウトソーシングするにあたって万全の準備をしている。

しかし,今後はそのような体制や環境になっていない企業でも,世の中の風潮により安易にアウトソーシングすることが多くなるであろう。そうなると,情報システム部門はIT部門になれるのか,DP業務をアウトソーシングしたときに,エンドユーザは適切に対処できるのかなどが懸念される。

この懸念は,情報子会社設立ブームの時代に実際に発生したことである。DP機能を子会社に出して,親会社にIT機能を残したはずなのであるが,そのIT機能が十分に発揮できなかったり,。親会社と子会社の間であつれきを生じたりした例は多く見聞された。なかには,子会社を吸収して元に戻した例もある。

3.1 利用部門に任せられるか

DP業務をアウトソーシングするということは,日常的なシステムについて情報システム部門は関与しない(できない,するべきではない)ということである。

(1)業界慣行のギャップ

従来は,情報システム部門はエンドユーザとベンダ(ここでは社外のシステム提供者一般を指す)の間にあって,エンドユーザから見ればシステム提供者の代表であり,ベンダから見れば利用者の代表であった。だからこそ,円滑な意思疎通ができたのであるが,それが存在しなくなると,利用部門がベンダと直接取引することになり,問題が発生する。

ところがこの業界では,一般の日本企業での商取引慣行とはかなり異なる慣行がある(それの善悪はここでは問題にしない)し,情報システム特有の問題もある。

@なぜ,自社製品の教育やお客のニーズ収集が有料なのか?

パソコンの使い方やミドルウェアの講習まで有料である。システムを構築するには,コンサルタントやSEが来てわれわれから業務を教わっている。それならば,われわれに授業料を払うのが当然である。それなのに非常に高額な費用を払うのはおかしいではないか。

Aなぜ,われわれがこんなに参加しなければならないのか?

ベンダ選定のときに,当社の業務をよく知っているとの理由で選定したのに,あまりにも常識なことまでわれわれに質問する。これではわれわれがシステムを作っているようなものだ。本来ならば「販売業務一式」といえば,それなりのシステムをいくつか持ってきて,われわれの注文により手直しをするのが当然ではないか。

Bなぜ,ちょっとした依頼に莫大なカネをとるのか?

西暦2000年問題を例にしよう。単に2桁を4桁にして前2桁に19を入れるだけのことではないか。しかも,そのシステムは以前そのベンダに外注したものだ。それなのに数億円もとるなどというのは一種の詐欺ではないか。

Cなぜ,システムがダウンするのか

以前の汎用コンピュータの時代では,コンピュータがダウンして仕事に困ったとい事態はほとんどなかった。それから技術は急速に進歩したはずなのに,CSS環境では頻繁にトラブルが発生する。しかも,その原因はいつも不明であり,うやむやな解決になっている。ベンダは自社製品に責任を感じていないのはないか。

これらは,情報システム部門も当初疑問に感じ,長年かかって了承してきた事項である。それを経験していないエンドユーザとベンダが直接取引をして,円滑な取引ができるだろうか? 現実にエンドユーザが直接にベンダに発注したときに,プロジェクト半ばで揉めてしまい,情報システム部門が介入して調整したという例は,多くの情報システム部門が経験していることである。

(2)情報化への責任の自覚

利用部門の要請によりシステムを構築し,それによる利益の実現は利用部門の責任であるのは当然であるが,とかく従来は,情報システム部門が情報システムの責任を負っていた。それが今度は利用部門の責任であることが明確になるのである。システム開発での要求事項の一つ一つにつき費用が発生するが,それを上回る業務改善が求められる。しかも,かなりシステム開発の経験がないと,ある要求による費用を推定するのは困難である[注4]。

注4 木暮 仁,「アプリケーションシステムの最適規模モデル −ミクロαβモデルの提案−」,関東学院大学『経済経営研究所年報』第19集、pp.120-125, 1997.3。エンドユーザの安易な要求により,情報システムの規模が過剰になり,費用対効果が悪化するメカニズムについて述べている。

このようなことは,従来は業務と情報技術をある程度知っていた情報システム部門が調整していたのであるが,情報システム部門がIT部門になると,おおまかな管理はするものの,細かい内容までは管理できない(するべきでもない)。それで,利用部門が自ら判断することになる。適切な要求仕様が作れるであろうか?

(3)部門内のアンバランス

グループウェアなどで顕著であるが,情報化では1部門だけではあまり効果がなく,全社的に推進すべきシステムもある。貧乏な部門が拠出できる費用がないときは,情報システム部門が全社的なインフラとしての予算をそれに回すこともあった。また,ある部門が予算があるからといって,自部門だけに役立つシステムを要求しても,情報システム部門が全社的な立場から拒否したり,他の部門との連携によるシステムを逆提案することもあった。

これらが円滑にできたのは,情報システム部門が情報化予算を管理し,実際にそのシステムを構築していたからである。IT部門になると,きめの細かい予算運用までは手がまわらなくなるし,各部門の動向を詳細まで監視することもできなくなる。

金持の部門では,うるさい情報システム部門がいなくなったので,ベンダに多様な要求ができるし,ベンダはそれが利益になるので受託する。それがこうじると,あたかもベンダを私兵化したような状況になり,エンドユーザの趣味によるシステムになりかねない。

逆に貧乏な部門では,システム改訂が必要になっても,それに見合う利益が出せないので改訂することができない。しかもERPパッケージなどは改訂費用が直接現金流出に結びつくので,本来はERPパッケージのシステムを改訂すべきなのに,ローカルなシステムを自作して回避するようなことにもなりかねない。

3.2 情報システム部門はIT部門になれるか

とかく情報システム部門はDP部門の扱いを受け,IT部門として育成されてこなかった。そのような情報システム部門をIT部門としたとき,有効に機能するだろうか?

(1)情報システム部門の想いと現実

タテマエでは,情報システム部門は自らをIT部門にしたいという。現在は,基幹系システムの企画・構築・運用やネットワークの整備・運用が大きな役割であるが,今後は,システム化の調整機能,情報活用戦略の立案,基幹系システムの企画など企画立案業務を主な役割にしたいと思っている[注5]。ところが,実際に新しい利用技術の採用に関する影響力について情報システム部長にアンケートしたところ,経営者や利用部門の影響は大きいが,情報システム部門の影響力は非常に小さいという調査もある[注6]。すなわち,想いはあるにせよ,実現はそれとはかなり遠いところにあるといえよう。

注5 JISA「ユーザ企業アンケート調査:情報システム部門」1997年8月,情報サービス産業白書1998年版,p.238

注6 木暮 仁「情報技術普及に関するアンケート調査での工夫と,そこから判明した情報システム部門の位置づけについて」,日本経営システム学会誌Vol.13, No.2, 1997.2, pp45-50。電子メール,ワークフローシステム,モバイルコンピューティング,プレゼンテーションツールの4つを対象に,その普及の予測と推進要因・阻害要因につき,経営者,利用部門,情報システム部門,他社動向,メーカー提案等の影響を調査した。

(2)DP部門に染まった情報システム部門

往々にして情報システム部門はDP部門の文化が染み付いている。

@「ユーザ主導型」の弊害

1960年当時は,情報システム部門はチェンジング・エージェンシであり変革型SEであった。IT部門として必要なのはまさしくそれである。ところが現在では「御用聞きSEから提案型SEへ」などといわれるように情報システム部員の主体性は低下している。経営情報企画委員会設立のように,IT業務を自ら放棄してきたのである。その原因の一つは「ユーザ主導型」の風潮である。情報システムは活用されてこそ価値を生じるのであるから,システム開発にあたっては利用部門が中心になるのは当然である。ところがそれが曲解されたか行き過ぎたか,利用部門のいうことを実現すればよいという風潮になってしまった。

A完全が当然の要求

短期は長期を駆逐する。日常的なDP業務と長期的なIT業務を兼務すれば,どうしてもDP業務に関心が向く。しかもDP業務での評価は,100点で当然であり99点なら叱られるのである。それで情報システム部門はリスク回避の部門文化になっている。IT業務は本質的にハイリスクなものである。情報システム部門がIT部門になるのは適切であろうか?

(3)不適切なIT部門になる危険

そのような情報システム部門をIT部門にしたとき,IT部門として不適切な行動をする危険がある。これは,情報子会社を設立した当時にもよく見られた現象である。

@観念論が横行する

日常業務としてのハードウェアやシステムもないと,次第にそれらに関する現実的な関心が薄くなる。すると,情報源はベンダとマスコミだけになり,その知識による観念論に陥りやすくなる。

Aベンダのコスト管理部門に

本来,アウトソーサとの関係はビジネスパートナであり,信頼の上に成り立つものである。ところが,それを経営者が理解していないと,アウトソーシングのコストに強い関心を持つので,IT部門もアウトソーシング先の監視部門になる傾向がある。そうなると,ベンダは改善をしても成果が発注先に取られてしまうので工夫努力をしなくなる。

B優秀な人材が集まらない

このような部門では,経営戦略への参画も不十分だし情報技術の習得もできない。魅力のない部門なので優秀な人材を集めることが難しい。結果としてIT機能が達成できないことになる。

3.3 経営者はIT部門化を望んでいるか

そもそも経営者は本当に情報システム部門をIT部門にしたいのであろうか。さらにはITを経営に重要だと認識しているのであろうか。

(1)CIOの現状

CIOへの期待は次のように変化してきた。

@昔(今でも?)ポスト確保の時代

情報システムは経営にはあまり重要ではないと認識しており,役員の腰掛的あるいは閑職的なポストとして情報システム部門を担当していた。

ASIS時代(1980年代後半)文化大革命の時代

経営の観点から情報システムを管理運営することが重視された。その反面,情報技術者バッシングに流れ,SEあがりを部長にするなという風潮を生み出した。

BCSS時代(1990年代前半)CIO受難の時代

オープン化,マルチベンダになると,情報技術の動向把握が重要になる。特にネットワークがわからないCIOは役に立たないといわれ,米国企業では多くの素人CIOが追放された。

Cインターネット時代(現在)CIO=CEOの時代

そして現在では,情報技術の活用はビジネスチャンスであり,経営そのものであるという認識が出てきた。それには社長自ら情報戦略の指揮をとることが必要だといわれている[注7]。

注7 産業構造審議会情報産業部会「情報化人材対策小委員会」中間報告では,「戦略的情報化投資の観点からは「経営戦略」の観点が重要であり、この点を明確にするために、あえてCIOとは異なる呼称として、CSO(Chief Strategic Officer)を用いることを提案」している。

(2)IT部門になる必要があるか

ところが「日経情報ストラテジー」誌の調査によれば,約7割の企業にCIO(名称はともあれ)がいるのに,3社に2社は情報システム部門出身の役員が1人もいないという[注8]。このことは,CIOには情報システム部門の経験知識は不要だと考えていることを示している。上記の認識とかなりかけ離れた状態である。

注8 「日経情報ストラテジー」1999年1月号, p.35。上場企業1820社。同誌では「3社に1社は情報システム部門出身者がいる」と「いる」ほうを重視している。たしかに以前と比較すれば増加しているが,販売部門や経理部門出身者がいない役員構成が考えられるであろうか? やはり「少ない」と見るほうが妥当であろう。

私は,経営者の認識が低いことを指摘しているのではない。おそらく経営者に聞けば,情報技術は重要であり情報システム部門をIT部門にするべきだというであろう[注9]。ところが経営者が重視する役員人事にはそれが反映されていないのである。タテマエとホンネの違いである。

注9 1994年の富士通総合研究所の調査によれば,日本の社長は,情報システム部門への期待として「戦略部門」が58%,「現場後方支援部門」が32%,「その他」が10%であり,米国の67%,24%,9%とあまり違っていない。当時で既にそう答えているのであるから,現在調査すれば「戦略部門」はかなり高い割合になっていよう。

ここで二つの質問をする。最初の質問「本当に情報技術は経営に重要なのか?」 その答がNoであるならば,IT部門化などを云々すること自体がナンセンスである。Yesだとしたら,次の質問「経営者や企画部門に情報技術者がいるか?」 もしいないのあれば,経営者は(株主も)タテマエはともかくホンネでは重要だと認識していないのであるから,情報システム部門がIT部門になったとしても,そのような環境では有効な活動はできないであろう。既に十分にいるのであれば,それが主体になるべきであり,わざわざ情報システム部門をIT部門にして二元管理をする必要はない。

一般的には,情報技術者は必要なのだが少ないので,それを育成して提供したいというのが実情であり,それを効率的に行なうための過渡的な措置として,情報システム部門をIT部門化しようというのが現実的なアプローチであると思われる。


4 IT部門化・アウトソーシングへの準備

4.1 情報システム部門は人材育成機関に

上記のような懸念がある企業では,IT部門化やアウトソーシングを行なう以前に,まず環境整備をする必要がある。 それには,次の対処が必要であるが,結局は,情報システム部門を人材育成部門にすることである。

@人材の提供

利用部門がシステムに責任がとれるように人材を提供すること。経営陣や企画部門に人材を提供すること。

A自らのIT部門への変貌

情報システム部門がIT部門になるかどうかはともかく,従来のDP部門として染み付いた文化からIT部門としての文化を構築すること。これは人材の育成と同じことである。

(1)情報技術者の必要性

情報システム部門がIT部門になるべきだとの論は,暗黙のうちに次のような前提に立っている。

このうち,@については特に反論はなかろう。Aの情報技術者についても,DP業務としての情報技術以外に,情報技術動向を正しく認識できる,システム思考ができる,価値観の異なるメンバを統合できるといった能力を持つ人材だとすれば,このような人材は重要である。

しかし,だからといってBの情報システム部門が経営の中枢になるべきだというのには飛躍がある。前述したように,経営者や企画部門にAの人材がいるならば,あえて情報システム部門をIT部門にする必然性はない。また,このような情報技術者は,経営者や企画部門だけではなく,各部門でも必要な人材である。特に情報システム部門のアウトソーシングにより,利用部門が情報システムに直接の責任を持つようにするには,このような人材を利用部門に配置する必要がある。

(2)情報システム部門と人材育成

育成のためにはしかるべき組織,指導者,環境が必要になるが,情報システム部門はそれに適した部門であると考えられる。逆にいえば,情報システム部門はこのような人材にするために,部員を育成するべきである。

@情報技術動向を正しく認識できる

これは情報システム部門の固有の業務になっているが,通常の企業では組織的な研究をしていないし,知識の共有化がなされていないのが現実であろう。

Aシステム思考ができる

最近のシステム化では,単純に改善できる問題は少ない。ある局面を改善しようとすれば他の部分で副作用がある。全体的な観点から調整したり,それらの矛盾を解決する方法を発見する創造性が求められているのである。これにはシステム開発でも重要な能力である。

B価値観の異なるメンバを統合できる

情報システムの対象範囲が拡大するに伴い関係者は増大する。企業間システムでは関係者の利害が対立することもあろう。海外も含めたシステムでは,関係者の文化も異なろう。異なる価値観を統一するのではなく,その違いを認めつつ共通の目的に結集させることが必要である。これはプロジェクト運営の経験が役立つ。

4.2 ローテーションでの工夫

情報システム部門は人材を育成して提供する必要がある。育成については多くのことがいわれているので,ここでは情報システム部門と利用部門とのローテーションについて検討する。

(1)便利屋にするな,ヒーローにせよ

無計画なローテーションをすると,受入側の利用部門で便利屋にされてしまう危険がある。利用部門が情報化は押し付けられた面倒な仕事と思っているときに,情報システム部門から入ってくると,彼(彼女)にすべてを押し付けるようになる。極端な場合には基幹業務系システムのデータ入力やワープロでの清書まで押し付けられる。それほどではなくても,パソコンの指導やネットワークのトラブル対処などDP業務をさせられるが,うまくいってあたりまえ,なにかあれば叱られるという立場になる。しかも,いつまでもよそ者の扱いでその部門の中核には入れてくれない。気がつけば情報技術知識も過去のものとなり,所属部門の知識経験もないという中途半端な立場になっている。

このような待遇をしたのでは,本人にも不幸であるし,健全な情報化も進まない。さらに問題なのは周囲の人たちが,コンピュータに興味を示したら彼のようになってしまうと思うことである。そうなったら,いかに情報化の意義を唱えたりEUCの普及を図ったとしても,その成功は期待できないであろう。

その逆に,利用部門の上司が彼をスタッフとして重用し,情報システム部門も支援すれば,その部門での情報化は円滑に進むし,特に努力しなくても情報への関心は高まる。そのような環境ができれば,情報システム部門がDP業務をアウトソーシングしても,比較的円滑に対応できるようになる。

(2)業務統合部門での組織

ここでの業務統合部門とは,営業本部とか本社経理部などのように,各部門の業務について指示・管理する部門のことである。EUCの推進では情報システム部門や利用部門に推進組織を設置することは当然であるが,業務統合部門にもその組織を置くことが効果的である。EUCの推進では,情報システム部門はインフラの整備を担当し,この部門ではデータウェアハウスの構築など,実務に即した利用を担当する。

ローテーションを行なうとき,情報システム部門から直接に利用部門に転出したのでは,業務内容が極端に違いすぎる。いったん業務統合部門でその部門の知識を得てから利用部門へ移るほうが望ましい。とかく情報システム部門の管理者は,部員を転出させると戦力低下になるとの理由でローテーションに難色を示すが,このようなローテーションならば,業務統合部門で多くの情報関連業務を行なうので,大きな戦力低下にはならない。このようなことは,利用部門から情報システム部門へのローテーションでも同様である。

しかも,業務統合部門は経営者との交流が多い部門である[注10]。上述の情報技術者になるには経営的な知識が必要であるが,それを得るには業務統合部門が最適である。すなわち,情報システム部門と業務統合部門が密接な人事交流をすることが人材育成に重要なのである。そして,このような人材を増加させることが,実際的なIT部門を実現することになるのである。

注10 1994年の富士通総合研究所の調査。社長が情報収集のための重要部署として,「本社スタッフ」73%,「情報システム部門」2%,「その他」25%であった。


5 おわりに

情報システム部門のIT部門化DPP業務のアウトソーシングについて,多様な観点からその必然性と問題点について論じた。今後,あまり情報システムに関心のなかった企業が時代の風潮によりアウトソーシングをすることが増大するであろうが,その場合に影の面を認識して,それを回避することが必要である。

冒頭に述べたように,失敗例や成功の裏にある矛盾は公表されることは稀であるが,成功したといわれている企業でも,非公式な場では必ずしもうまくいっていないという話も聞くし,私自身の経験でも,ここであげたような問題点が発生する危険があると思われる。

本論文の結論として,情報システム部門が人材育成部門になることが重要であることを示した。しかし,これは新しい提案ではなく,従来からもいわれてきたことなのである。ところが,具体的な取り組みが不十分なままに,さらに重要な局面にさしかかってきたのである。古くて新しい問題である。


注と参考文献

1 SISの提唱者であるC.Wiseman は,このような任務を持つ情報システム部門をIM(Information Management)部門と呼んでいる(C.Wiseman, "Strategic Information Systems“,土屋守章,辻新六訳『戦略的情報システム』,ダイヤモンド社,p.373, 1989)が,日本ではIT部門のほうがポピュラなのでそれを用いる。

2 J.Martin は1980年頃にインフォメーション・エンジニアリングを提唱したが,このようなエンドユーザがプログラムを作って処理することを「ユーザを運転席に」「プログラマなしのシステム開発」などと表現している(J.Martin, "An Information Systems MANIFESTO", 成田光彰訳『管理職のための情報戦略』,日経マグロウヒル,p.57, 1986)。

3 島田達巳,『アウトソーシング戦略』日科技連出版社,pp.28-31, 1995.

4 木暮 仁,「アプリケーションシステムの最適規模モデル −ミクロαβモデルの提案−」,関東学院大学『経済経営研究所年報』第19集、pp.120-125, 1997.3。エンドユーザの安易な要求により,情報システムの規模が過剰になり,費用対効果が悪化するメカニズムについて述べている。

5 JISA「ユーザ企業アンケート調査:情報システム部門」1997年8月,情報サービス産業白書1998年版,p.238

6 木暮 仁「情報技術普及に関するアンケート調査での工夫と,そこから判明した情報システム部門の位置づけについて」,日本経営システム学会誌Vol.13, No.2, 1997.2, pp45-50。電子メール,ワークフローシステム,モバイルコンピューティング,プレゼンテーションツールの4つを対象に,その普及の予測と推進要因・阻害要因につき,経営者,利用部門,情報システム部門,他社動向,メーカー提案等の影響を調査した。

7 産業構造審議会情報産業部会「情報化人材対策小委員会」中間報告では,「戦略的情報化投資の観点からは「経営戦略」の観点が重要であり、この点を明確にするために、あえてCIOとは異なる呼称として、CSO(Chief Strategic Officer)を用いることを提案」している。

8 「日経情報ストラテジー」1999年1月号, p.35。上場企業1820社。同誌では「3社に1社は情報システム部門出身者がいる」と「いる」ほうを重視している。たしかに以前と比較すれば増加しているが,販売部門や経理部門出身者がいない役員構成が考えられるであろうか? やはり「少ない」と見るほうが妥当であろう。

9 1994年の富士通総合研究所の調査によれば,日本の社長は,情報システム部門への期待として「戦略部門」が58%,「現場後方支援部門」が32%,「その他」が10%であり,米国の67%,24%,9%とあまり違っていない。当時で既にそう答えているのであるから,現在調査すれば「戦略部門」はかなり高い割合になっていよう。

10 同上の調査。社長が情報収集のための重要部署として,「本社スタッフ」73%,「情報システム部門」2%,「その他」25%であった。