スタートページ> 主張・講演> 経営者・利用部門のためのIT入門> 第1章 ITへの期待の変化
1970年代後半になると、TSS技術(Time Sharing System:時分割方式、参照:「TSS」)が実用化しました。役員室や利用部門に設置した端末からコンピュータを共同利用できるようになったのです。利用者に使いやすいツールも普及してきました。
そうなると、基幹業務系システムで収集蓄積したデータを利用者が使いやすい形式にして公開し、利用者が簡易ツールを用いて、任意の切り口で検索加工することができます。このように、「必要な人が、必要なときに、必要な情報を容易に得る」ことにより、コンピュータを意思決定の道具として活用する概念をDSS(Decision Support System:意思決定支援システム)といいます。また、このような利用形態を情報検索系システムといいます。
情報検索系システムは1980年代を通して普及し、1990年代にはデータウェアハウス、2000年代にはBI(ビジネス・インテリジェンス)へと発展しました。
(広義の)DSSは,(狭義の)DSS(「モデル指向型DSS」)とESS(Executive Support System:経営者支援システム「データ指向型DSS」。EISともいう)に区分できます。
モデル指向型DSSは,コンピュータを用いて実験をするような使い方です。情報技術的に見れば,データベースとそれを多様に加工するモデルベース(予測モデルとか予想財務シミュレーションモデルなど)を持ち,それを対話的な一般のユーザにも使いやすいツールで処理する形態だといえます(詳細)。
データ指向型DSSは,基幹業務系システムで収集蓄積したデータを,経営者が見やすい形に編集したファイルを多数作っておき,経営者が必要に応じて情報を入手できるようにしたシステムです。
本シリーズでは、データ指向型DSSを主に取り扱います。そして、このDSSやデータウェアハウスなどの利用形態の総称として、基幹業務系システムということにします。
モデル指向型DSSとは、コンピュータを机上実験のツールとして用いる形態です。予想財務モデルを例にします。
利益=売上高-総費用
売上高=売上数量×売上単価
生産可能量=現在の生産可能量+係数×設備投資額
売上数量=現在の売上数量+係数×販売促進費
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のように、財務諸表関連の定義式や戦略の期待式(係数は変更可能)などをモデルとして構築し、標準数値として現在値や経験値を設定しておきます。
そして、
原価が5%増加したら、利益はどれだけになるか?
標準と同じ利益を得るには、売上高をどれだけ増加させる必要があるか?
それには、設備投資や販売促進にかける費用はどの程度になるか?
などの What If Problem を試行錯誤して意思決定をします。
面倒な計算をコンピュータにさせ、問題提起や判断は経営者が行うという形態ですので、ヒューリスティックアプローチといいます。この頃にTSSが普及してきたので、このような利用が可能になりました。現在では、Excelの標準機能(Goal Seeking)として組み込まれています。
ORも同様なアプローチではありますが、DSSでもロジックが経営者でもわかりやすいこと、対話的に進めることができることが特徴です。
基幹業務系システムでは、定例的・定型的な処理をするのが特徴です。ところが、営業部員が月の途中で自分の担当する商品や得意先の売上状況を見たいこともあります。基幹業務系システムでは得意先、商品の順で集計されているものを商品別、得意先の順に集計したいとか、府県別に集計したいことがあります。
このとき、伝票や既存帳票から集計するのでは手間がかかります。また、IT部門に依頼するのでは、結果を得るのに時間がかかりますし、IT部門が忙殺されてしまいます。
情報検索系システムは、このような非定例的・非定型的な情報を得たいという要望に応えることを目的として始まりました。それらのもとになるデータファイルがあれば、利用者が多様な切り口で選択・集計ができます。そのデータをパソコンに取り込んで二次加工することもできます。
石油業での流通合理化を例にしましょう。「何を、どれだけ、どこならどこへ、どのような手段で輸送し、誰に、いくら支払ったか」とうような処理システムはすでに完成しています。「流通コストを下げるにはどうするか」が主要な課題になります。
その課題解決に必要な情報が何かがわからないのです(わかっていれば既に対処しています)。おそらく,次のようなアプローチをするでしょう(当然架空例です)。
このように、あるアイデアが浮かんだらその結果を求め,その結果を分析して新たな問題を発見するというように,イモヅル的に検討を続けていきます。そして,その過程において,適切な案を実施することにより,合理化が実現できるのです。このような,問題発見・仮説検証をすることが,業務の改善に役立つのです。
ところが実際にはこんなに単純ではありません。試行錯誤の連続で、上のプロセスにたどりつくまでに百回程度の無駄や失敗があります。このような情報要求に対して,いちいち情報システム部門に依頼していたのでは、ターンアラウンドが長くて仕事にならないし、そのうちユーザも情報システム部員も疲れてしまい、適当にあきらめてしまいます。それで、情報検索系システムが必要になるのです。
情報検索系システムを活用すれば、基幹業務系システムよりもはるかに大きな効果が期待できます。
情報検索系システムは、基幹業務系システムを補完する形態として始まりました。しかし、情報検索系システムの重要性に着眼すれば、その関係は逆転します。情報検索系システムで用いるデータが正確ないと、誤った意思決定につながります。データの正しさを保証するには、厳密に定義されたデータをルール化された手段で収集することが必要です。それが基幹業務系システムなのです。すなわち、基幹業務系システムとは、情報検索系システム活用のためのデータを提供する役割だということができます(もちろん、他の役割もありますが)。
基幹業務系システムの構築にあたっては、目的を明確にして、必要となるデータを洗い上げることが求められます。情報検索系システムは、そのための指針となりましょう。
なお、情報検索系システムは、基幹業務系システムの簡素化、IT部門の戦略部門化などに大きく寄与します(参照:「情報検索系システムによる基幹業務系システムの規模縮小」)。