スタートページ主張・講演経営者・利用部門のためのIT入門第3章 個別システムの調達(1)

情報システムの検収とSLA


情報システム開発が完了したら、システム仕様書に盛り込んだ要件がすべて適切に機能することを確認して検収をします。また、運用に際してSLA(サービスレベル・アグリーメント)の契約を行います。

テストと検収

開発した情報システムにはエラーがあります。それを発見して修正する工程をテストといいます(参照:「テスト」)。プログラム単位のテストはベンダが行いますが、システム仕様書の機能がすべて満足しているかを確認することをシステムテストは、利用部門が主体で行う必要があります。システムテストでは、要件が正確に理解され取り込まれているかの確認をします。また、誤ったデータのチェックができているか、操作性がよいかなどの確認もします(実際の稼働環境での動作確認も必要です。それを運用テストといいます)。

システムテストでは、利用者である利用部門が主体にならなければ、有効なテストができません。特に重要なのは、テストデータを利用部門が作成すべきだということです。そのテストデータでは、いろいろなケースをカバーしていること、正しいデータだけでなく、誤ったデータも用意する必要があります。そのために、かなり大きな作業になります。とかく利用部門は手を抜いて、「前月のデータを用いて前月と同じ結果になればよい」などとしがちですが、それではエラーが発見できません。本番移行してからエラーが起こり大きなトラブルになる危険があります。

テストには十分な期間をかけて、エラーをなくすことが必要ですが、そもそも全体のエラー総数が不明なのですから、それを皆無にすることはできません。実施移行の都合もあります。それで、一応エラーがなくなった時点で打ち切ることになります。

検収と瑕疵責任

これらのテストがすべて完了したことを発注者が承認したら検収をします。通常は、検収後一定期間の間に発見されたエラーに関してはベンダが無料で修正する契約にしておきます。通常は、月次処理のシステムでは半年、期末処理では1年のように設定します。これを明確にしておかないと、修正費用をめぐってトラブルになることがあります。

SLA

SLA(サービスレベル・アグリーメント)とは,システムの品質・機能,障害時の復旧時間などのサービスレベルについて,発注者とベンダが取り交わす契約です(参照:「SLA/SLM」)。
 例えば、というようなことを双方で合意し、文書を交わします。
  ・ハードウェア故障の頻度は年間○回以下、稼働率は○○%以上とする。
  ・ソフトウェアのエラーは○個以内とする。
  ・応答時間(ENTERキーを押してから画面の最初がでるまでの時間)は○秒以内とする。

本来ならば、このような事項をRFPに示してシステム開発の契約時に設定すべきなのですが、その時点では不確定要素が多いし、該当情報システム以外の事項を含めることがあるので、実施移行時点で改めてSLAとするのが通常です。

運用における各種サービスをITサービスといいます。単に情報システムの保守改訂だけでなく、利用者からの質問に対応するヘルプデスク、ハードウェアの故障の修理などを含みます。ITサービスの分野でも外注することが通常になっています。  運用開始に先立ち利用者とベンダの間で、ITサービスに関する契約を行いますが、その基本となるサービスレベルについての合意がSLAなのです。

通常はベンダのサービスレベル保証になりますが,それが達成できないときのペナルティ,努力目標として設定したレベルを達成したときのインセンティブも加えることがあります。発注者は厳しい条件設定をしたがりますが、例えば応答時間を極度に短くすると、ハードウェアやソフトウェアの費用が増大することになります。実務的な観点から必要な値にすることが適切です。また、引き渡しの段階で適切な値を決めることができないこともあります。それで経過を見て変更するといった、期間を設定することも適切です。

なお、ITサービスに関する機能体系とその運用に関する世界標準にITIL(IT Infrastructure Library)があります(参照:「ITサービスマネジメントとITIL」)。SLAは、ITILの一部分だといえます。SLAの作成方法や見本に関して、経済産業省や業界協会などがガイドラインを公表しています(その例)

経済産業省『情報システムに係る政府調達へのSLA導入ガイドライン』2004年
経済産業省『SaaS向けSLAガイドライン』2008年
JEITA(電子情報技術産業協会)『民間向けITシステムのSLAガイドライン(第3版)』2006年
JEITA(電子情報技術産業協会)『民間向けITシステムのSLAガイドライン-追補版:SaaS対応編』2008年
ITコーディネータ協会『RFP・SLA見本』