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マーケティングと情報活用

本文は、松下電器産業情報システム部門「テクニカルニュースレター」(1998/10/12)に寄稿したものを、同社の了承を得て登録したものです。


1 企業戦略における情報技術利用

消費経済の成熟化や経済のグローバル化に伴い、市場競争が激化している。それに対処するには、顧客ニーズに合致した製品を迅速に開発し流通させること、合致しなくなった製品を撤退させる必要がある。しかも顧客ニーズは多様化しており、市場をマスとしてとらえるのではなく、個々の顧客である個客として把握することが求められる。すなわち、顧客購買情報をより詳しくより迅速に収集し分析することが重要である。

販売時点での情報を迅速に入手するために、POSやEOSは以前から普及しているし、自社クレジットカードや会員カードを発行することも普及している。また、最近では、お客様相談室やクレーム受付などが顧客ニーズ入手目的を重視したコールセンターとして見直されるようになった。インターネットも顧客ニーズ入手手段として重視されている。

顧客購買情報をデータベースに蓄積し多様な角度から分析するマーケティングをデータベースマーケティングというが、その分野ではデータウェアハウスが注目されている。スーパーやコンビニでは、POS情報を分析することにより商品の陳列を工夫して併買機会を高める(紙おむつとビールを並べる例が有名)とか、クレジット会社では、与信審査に過去の会員情報を統計的に解析して優良客・不良客をより明確に識別できるようになったなど、多くの分野での効果が発表されている。これらの活用には、利用者が任意の切り口でデータを多様に検索加工することが必要になる。

競争激化、価格破壊、収益低迷などに対処するには、在庫を圧縮することと受注から納品や代金回収までの期間を短縮することが重要である。デルコンピュータは、これを追求することにより、競争激甚なパソコン業界において、シェアを増大させ高収益をあげている。そのための情報活用として、SCM(サプライチェーン・マネジメント)が注目されている。これを円滑に活用するには、基幹系システムによる定型的な情報交換とともに、電子メールなどの非定例的な情報連絡手段が必要になる。

また、最近ではモバイル・コンピューティングの環境が急速に発展してきた。顧客訪問先あるいは移動中においても、オフィスにいるのと同様に、社内の資料を取り出すことができ、また報告をオンラインで行うことができる。これにより、自宅から訪問先に直行直帰することができ、訪問回数や訪問時間を増やすことにより、顧客とのコミュニケーションを高めることが期待される。ここでは、グループウェアのような利用が必要となる。

このように情報技術による営業活動支援をSFA(セールス・フォース・オートメーション)という。とかくSFAは、モバイル・コンピューティングのような直接的なものに限定して理解されがちであるが、データウェアハウスやSCMなども含めた総合的な概念であると把握するべきである。

2 経営者・営業部門の情報活用

情報システムは歴史的には、基幹系システム→情報系システム→グループウェア→インターネットの順序で発展してきた。しかし、情報活用の観点では、インターネットでの社外との情報交換→グループウェアでの社内情報交換→情報系システムでの数値的情報の多様な切り口での検索加工→それらの情報を収集するための基幹系システムという順序で把握するほうが適切である。そして、最後の基幹系システム以外は、利用者が自主的に活用するのでなければ、存在そのものが無意味になる性格のものである。

マーケティングや営業活動が経営戦略の中核であるべきことはいうまでもない。そして、情報技術は第4の経営資源であるとか、企業競争戦略の武器であるなどといわれて久しい。また、上述のSFAのように、情報技術がマーケティングや営業活動に大きく貢献するのは間違いない。そして、基幹系システムよりも、インターネット、グループウェア、情報系システムなどの活用のほうが貢献の中心になっているのである。

ところが、ややもすると(以下は松下グループではなく、一般の企業のことをいっている)、その最大の当事者である経営者と営業部門は、企業の中で最も情報システムを活用してしていないグループに属する。

当然ながら、コンピュータシステムの大部分はこの分野に投入され、多くの資料が作成され提供されている。しかし、それらはシステム部門に要求して基幹系システムとして構築されることが多い。そのために、提供される資料は定型的定例的なものが多く、問題を発見し解決するには不十分である。利用者が自ら情報を求めて試行錯誤することが望ましい。

経営者や営業部門は、パソコンの操作を習得することには冷淡であり、インターネットやグループウェアの利用では、他人に情報提供を求めるわりには、自ら情報提供をしたがらない。情報系システムでも、自ら情報を求めるのでなく、情報システム部門などがすべてお膳立てをしてくれることを要求する。

これでは、せっかくの情報技術の効果を十分に発揮できない。経営者・営業部門の積極的な情報活用が期待される。