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スーパーの業務

スーパーを小売業の代表例として、商品計画や仕入計画など業務の概要を説明します。経営の観点からの商品戦略や仕入戦略などは別途マーケティング戦略技法で扱いますので、ここでは日常業務のなかでの戦術レベルの事項を対象にします。

キーワード

商品計画、最寄品、買回品、専門品、商品カテゴリー、アイテム、品目、品揃え、品揃えの幅、品揃えの奥行、単品、単品管理、価格計画、仕切率、値下率、値入率、価格計画、値付け、仕入計画、仕入条件、DPP、VMI、ECR、販売計画、薄利多売、店舗レイアウト、陳列場所、併売、チラシ、実演販売、在庫管理、商品回転率、交差比率、GMROI、売れ筋商品、死に筋商品、過剰在庫、品切れ、発注業務、SA、防犯カメラ、セルフレジ、無人店舗、スマート店舗


商品計画

小売業は、商品販売側なので、「どのような商品をお店に並べるのか(商品構成、品揃え)を決めることが商品計画です。その前提として、顧客ターゲットの選定とニーズの把握が重要ですが、そのような戦略的観点は、「マーケティング戦略技法」で取扱います。

商品区分

商品を管理するには、なにかの特性でグループ分けすること、それを個々の商品にまで細分化する必要があります。

消費財の区分(最寄品、買回品、専門品)

消費財商品は、顧客の購買行動により、次のように分類されます。スーパー取扱商品のほとんどは最寄品です。

商品カテゴリー

最寄品の分類方法は目的によりさまざまですが、次のように大区分から小区分へと階層化するのが通常です。店舗内レイアウトはほぼこの分類で配置されていますし、販売分析もこの分類で集計することが多いようです。
  グループ    食料品 日用雑貨、化粧品、衣料品など
  デパートメント 加工食品、生鮮食品、飲料など
  ライン     レトルト食品、缶詰。瓶詰、インスタント食品など
  クラス     カレー、ハンバーグ、パスタソース、うどんの素など
  サブクラス   高級品 並級品 自社ブランドなど
  アイテム    〇〇カレー △△カレー □□カレーなど

このアイテムのレベルを品目といい、〇〇カレーを品名といいます。後述のように単品ともいいます。単品にはJANコードと1:1の関係になるのが通常です。

品揃え

店舗にどのような商品がるかの尺度です。「豊富な品揃え」とは「あそこに行けば何でもある」ということです。
品揃えの幅(広い狭い、Broad/Narrow):商品カテゴリーが広いか狭いか
品揃えの奥行 (深い浅い、Deep/Shallow):同一品目(アイテム)の商品が多種類あるかどうか

     広 ┌────┬────┐
   商   │    │    │
   品 品 │B&S型│B&D型│
   カ 揃 │    │    │
   テ え ├────┼────┤
   ゴ の │    │    │
   リ 幅 │N&S型│N&D型│
   構   │    │    │
   成 狭 └────┴────┘
       浅 品揃えの奥行  深
          品目構成

単品管理

単品とは、品目レベルに細分化した商品、すなわち「〇〇カレー」などのことです。そのなかの1個の商品を指すこともあります。そして、商品を単品レベルで管理することを単品管理といいます。

単品管理は、スーパー業界に大きな変革をもたらしました。バーコードやPOSが導入される以前は、手作業でレジで商品を入力していたので商品カテゴリーの大区分レベルを入力するのがやっとでした。そのため、販売記録を分析しても、「カレーの売れ行きが伸びている」「レトルト食品の利益率が低い」というレベルしか把握できません。これでは、〇〇カレーをもっと仕入れるべきか、△△カレーは儲かっているのかなどがわからず、担当者のカンで管理するしかなかったのです。
 POSの仕組みや効果に関しては、「POSのしくみ」「POSのメリット」、バーコードに関しては、「小売・物流分野の標準コード」を参照してください。


価格計画と仕入計画

「粗利益=販売価格-仕入価格」ですから、利益を上げるには、販売価格を高く仕入価格を低くすればよいのは当然ですが、スーパー業界は、それが困難な要因が多くあります。

単品当たりの利益尺度

価格計画

価格設定(値付け)は利益に直結する重要事項ですが、大きな制約があります。

仕入計画

販売価格に上限があるなら、利益確保には仕入価格を下げることになります。戦略レベルではチャネル戦略として多様な手段が提唱されていますが、ここでは日常業務レベルの事項に限定します。
 仕入先に単に仕入価格引き下げを要求しても、仕入先の事情により限度がありますし、公平な取引として無理なことはいえません。

仕入には、仕入価格だけでなく、小売と仕入先との間の交渉により、多様な条件が付けられることがあります。これらの条件は仕入価格以外での利益に影響を与えます。優越的立場を乱用した一方的な条件は、公正な取引を阻害することから、独占禁止法で規制されています。

DPP(Direct Product Profit)

直訳すれば直接原価ですが、ここでは仕入価格に取引条件による加減算、さらに陳列スペースの期待利益、人件費など広義での変動費をすべて加えたものです。DPPの値は仕入価格とかなり異なり、利益商品と思われていたものが、実際には大した利益にならない(あるいはその逆)と評価されることがあります。

VMI(Vender Managed Investment)

メーカーや卸売業など納入業者がスーパーの在庫管理を行うことです。
 これらの各社が信頼関係を高め協力することにより、次のような効果が得られます。

  1. 小売業者は、POS情報をメーカーに公開します。メーカーはそれをみて、どの店舗に何をどれだけ納入するかを決定し、配送します。すなわち、発注・受注の作業が不要になります。メーカーは、適切な配車計画を立てることができます。
  2. 双方が数量や品質について信頼しているので、検品作業が不要になります。納品書も不要になります。
  3. 配送業者は、そのメーカーに与えられた陳列棚に直接陳列します。(注)
  4. メーカーの小売業者への売上は、公開されたPOSデータでの販売数量を用いるため、請求伝票などは不要です。小売業者はPOSデータに基づいて代金をメーカーに支払います。

(注)スーパー側では、納品場所・倉庫から陳列場所に移動する(品出し作業)は、大きな労力(人件費)になっています。それを任せられれば大きなメリットになります。
メーカー側では、この作業を行う代償として、希望する陳列場所を確保できます。後述のように、陳列場所により売行きが大きく異なります。売れる場所を独占することにより、この品目での競争優位を獲得できます。

ECR(Efficient Consumer Response)

このように、小売業者、卸売業者、メーカーの製流販三層が情報を共有して協力することにより、多くの作業が不要になるため、コスト削減が実現できます。また、情報が迅速に得られるために、メーカーは適切な生産計画ができ、その結果としてスーパーでは予定した品揃えができます。これらは、顧客満足を獲得するのに効果的な手段です。
 このような協力体制を一般にはSCM(Supply Chain Management)といいますが、スーパー業界ではECRとして以前から行われていたのです。


販売計画

販売価格と仕入価格の差が小さいことから、大量販売手段が必要になります。

販売促進

他スーパーではなく、自スーパーに来てもらうには、差別化する魅力が必要です。そのうち、立地、店舗規模、駐車場など店舗設置などの戦略的検討事項はここでは割愛します。また、商品価格については上述しました。

店舗レイアウト

このような分析をするために、統計的手法やAIの活用が行われています。 バスケット分析多変量解析の基礎

チラシ

スーパーでは、「ポイント5倍」とか「タマゴ99円」など特売日や値下商品などの情報を広告することが来店客を増やすのに効果があります。その手段として。新聞の折り込みチラシを使うのが通常です。以前はダイレクトメールも使われていましたが、情報量の増大や郵送料の圧迫などで、現在は利用されなくなりました。代わって電子メールやSNSの利用が注目されています。

チラシの発行は本社や地域支店などセンターが、各地域別のスーパーをまとめてして発行するのが通常です。顧客はいくつかのスーパーのチラシを比較して、行先を検討します。発行は週1回か2回か、他社と同じ曜日に発行するか、あえて他の曜日にするかなどで、顧客のチラシを見る程度が変わります。特売日や特売商品も特定の曜日に固定することにより、顧客がそれに合わせて来客するようにできます。他社と特売日を合わせて競争するか、ずらすことで共栄するかの検討もあります。

チラシの効果はは商品価格の訴求だけではありません。チラシを通して会社や店舗の活動を伝えることにより、イメージの向上にも役立ちます。

個々の店舗が独自にチラシを出すこともあります。店舗での売上目標などの目標達成、過剰在庫の一掃などの内部事情のためだけでなく、狭い地域での学校の運動会や社寺のお祭りなどのイベントに関連する商品の特売などが目的になります。センター発行のチラシと異なり、質素なものですが、注目度は高いといわれています。

実演販売

取り扱っている商品を用いて料理をする(常設の)実演コーナーや、肉や魚の解体実演のようなイベントは、来客数増加に有効ですし、「つられ買い」にもつながります。スーパーが企画することもありますが、納入業者が商品紹介、販路拡大で行うこともあります。

また、児童の「お絵かき」などを募集して掲示するようなことも広く行われています。


在庫管理と発注業務

在庫管理

発注業務

適正在庫にするには、仕入先への発注量と納品時刻が適切でなければなりません。大雑把な発注は本部が発注して店舗に配送しますが、店舗での販売・在庫状況から店長が調整分を本社に報告して、発注を調整することになります(店舗から仕入先に直接注文を認めていることもあります。

店舗での在庫を把握するのに目視で行うのは大変な作業です。棚に貼ったバーコードやICチップを読込み、数量だけを入力すればよいというものから、事務室の管理パソコンに棚の在庫数量が表示されるもの、さらには、過去の販売トレンドや曜日・イベントなどからシステムが発注ガイドを表示し、店長はそれを確認、修正をするだけでよいシステムになっているものもあります。


SA(Store Automation)

前述した店舗運営の合理化、本部との情報交換、本部での情報分析などに広くITが活用されています。特に店舗業務を対象にしたものを総称してSAといいます。
 レジでのPOSや、発注業務でのEOSはSAの代表的な機能です。現在ではセンサ技術やAIの活用により、無人スーパーすら出現するまでになっています。
 以下、多様な角度からSAの活用を列挙します。

無人店舗(スマート店舗)

スーパーやコンビニでは、人材不足や労働環境改善の観点から省力化が進んでいます。究極的な形態が無人店舗です。上述のSAを発展させ統合的なシステムとすることで実現されます。
 未だ試行段階ですが、新型コロナウイルス対策として人との接触を減らそうという動向により、加速されるかもしれません。