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ここでは、事業所間や関係会社間など限定された相手先との通信を対象にする。LAN(Local Area Network)に対してWAN(Wide Area Network)と呼ばれることもある。代表的なネットワークは専用線とVPNである。
1906年 最初の専用線サービス開始
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1920年代以降 新聞・通信社、銀行などで専用電話回線導入が進む
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1945年 太平洋戦争終戦
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1960年代 一般大企業でコンピュータ導入(★)
1960年代 専用回線による事業所間データ通信
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1978年 符号品目専用線(データ通信に適したデジタル回線)サービス開始
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1984年 高速デジタル専用線サービス開始
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1982年 中小企業VAN(☆)
1985年 通信回線自由化(★)
1980年代後半 VANの普及
1993年 150Mbps高速デジタル専用線
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1994年 一般専用回線数減少に
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1995年頃 インターネットの急速な普及始まる(☆)
1996年「公-専-公」接続の自由化
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1990年代後半 エクストラネットへの移行(☆)
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1990年代後半 ブロードバンド(CATV 96年、ADSL 99年、FTTH 2000年)(★)
1990年代末 高速デジタル専用回線数激増
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2001年 高速ディジタル回線数減少に
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2003年 イーサーネット専用線サービス開始
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加入電話やインターネットなどのように、不特定多数が利用できる回線を公衆回線という。それに対して、定められた2点間を独占的に利用する回線を専用線という。
専用線は費用は高いが、公衆回線の制約を回避できるメリットがある。電話を中心とした時代からマルチメディアを主体とする時代へ移行するのに伴い、重視されるメリットも変化してきた。
日本最初の専用線サービスは、1906年7月20日に東京の日本銀行と横浜の正金銀行本店間で開始された。
当時の公衆電話環境は、回線網が不十分な上に電話交換手による接続だったために、なかなか相手につながらない状況であった。それを回避するのが目的だったといわれている。年間使用料は1,436円(現在価値では約2,500万円に相当)、初期工事費用を含めると6,000円(1億円相当)であったという。
1920年頃から新聞・通信社、銀行などで専用線を利用するようになり、その後着実に増加していたが、当時はあくまで電話としての利用であり、一般企業での利用はあまり進まなかった。その後、太平洋戦争とその敗戦により、低迷してしまった。
1960年代中頃になると、大企業でのコンピュータ導入が本格化した。それに伴い、本社(メインフレーム)と支店や工場(小型コンピュータやデータ入力機)との間でのデータ通信のために専用線の利用が活発になった。
1984年サービス開始の「高速デジタル専用線」と区分して、それまでの専用線を一般専用線という。一般通信回線には帯域品目と符号品目がある。
帯域品目とは、専用線の伝送周波数帯域(電話網規格相当の3.4kHzなど)を保証するアナログ回線である。主に通話やFAXなどに利用される。データ伝送では、当初は音響カプラを用いた300bpsという低速であったが、すぐにモデムを用いた2.4kbps(2点間では4.8kbps)になった。
符号品目とは、伝送可能な符号通信速度を保証するデジタル回線で、1978年からサービス開始された。主な回線速度は2.4kbps、4.8kbps、9.6kbpsである。
一般専用線は、1980年代を通して急速に普及したが、1990年代になると高速デジタル専用線へと移行した。NTTは2011年に符号品目の新規受付を終了した。
1984年に「高速デジタル専用線」サービスが開始された。
「高速」とはいえ、64Kbpsが主流であり、開始当時の最大速度は6Mbpsであった。その後、高速化が進み1993年には150Mbpsの回線もサポートされるようになった。
1995年「公-専」接続、1996年「公-専-公」接続の自由化により専用線と公衆回線を相互接続した運用ができるようになった。また、専用線の価格、特に遠距離の価格が高いことが指摘されていたが、1995年から逐次料金改定が行われるようになった(それでも高いが)。
このような施策により、専用線数は2000年代に入るまで着実に増加していった。
VAN(Value Added Network:付加価値通信網)とは、複数企業と回線接続してハブとなり、データ交換を円滑に行うための機能をサービスするものである。
代表的な付加価値には次の機能がある。
・プロトコル変換(通信プロトコルなど)
・フォーマット変換(データのフォーマット)
・コード変換(文字コード、商品コードなど)
・メディア変換(通信速度など)
・メールボックス機能
当時の汎用コンピュータ時代では、各メーカーが独自の通信プロトコルや文字コードを使用していた。専用線を用いている企業もあれば公衆回線だけの企業もある。交換するデータは各社独自のアプリケーションの一部なので、それを相手の都合に合わせて変換するのは面倒である。このようなことを2社間ごとに取決める必要があったが、VAN業者を通すことにより、その必要がなくなる。
私が所属していた企業では、各県の全農に製品を納入していた。オンライン受発注を実施したのであるが、当時の全農は各県での独立性が高く、それぞれの仕様によってオンライン化を行うことになり、非常に複雑なシステムになってしまった。その後、全農が全国共通システムを構築してくれたときには、非常に感謝したしたものである。
1982年に臨時暫定措置として、中小企業間でのオンライン受発注を支援するための中小企業VANが認められた。そして、1985年の通信回線自由化により、VAN事業が全面的に解禁され急速に広まった。
当時は、電気通信事業法は電気通信事業者を通信回線を所有する第一種電気通信事業者と、その回線を借りてサービスを提供する第二種電気通信業者に区分していた。この第二種電気通信業者がVAN業者だともいえるし、インターネットプロバイダもVAN業者の一つだということもできよう。
1990年代の中頃から、インターネットが急激に普及した。インターネットは不特定多数を対象とした通信回線を利用して、距離に無関係な料金体系であり、標準的なプロトコルが使える。さらに2000年代になるとブロードバンドが普及して、高速なデータ通信にも使えるようになった。
このような特徴により、専用線からインターネットへの移行が進んだ。しかし、インターネットでは不特定多数がアクセスするのでセキュリティ対策が必要である。その解決のために2000年代にはVPN(後述)が出現するが、ここではVPNへの橋渡し的な状況を取り扱う。
インターネットは不特定多数がアクセスする環境であるが、インターネット技術を事業所間や特定取引先など利用者を限定した環境に適用したものをエクストラネット(Extranet)という(社内LANにインターネット技術を適用したものをイントラネット(Intranet)という)。
エクストラネットには、次にようなメリットがある。現在では、インターネット技術を利用するのは一般的なので、エクストラネットもイントラネットも死語になっているが、1990年代後半には広く用いられていた。
エキストラネットにより、回線費用分担の交渉が事実上不要になったこと、コンピュータやパソコンの機種を統一する必要がなくなったことは、企業間ネットワーク構築の交渉を円滑にすることに大きく貢献した。
エクストラネットで問題になるのはセキュリティである。第三者からの攻撃や第三者への秘密漏えいを防ぐことが重要である。それを追求したのが後述するVPNであるが、当時ではアクセスでのパスワードやデータの暗号化など簡単な手段だけで対応するのがせいぜいであった。セキュリティの危険よりも上述の効果のほうが重要だったのである。
1990年代でのインターネット回線は、公衆電話回線が28.8kbps、ISDNが64kbpsおよび1.5Mbpsであった。6Mbps(1984年)、50Mbps(1995年)、150Mbps(1993年)のような高速を得るには専用線を使う必要があったのである。
ところが、1990年代末からブロードバンドがサービスされるようになった(CATV:1996年、ADSL:1999年、FTTH:2000年)。しかも、2003年頃から料金が急激に低下した。
これにより、多くの企業での通信回線は専用線主体からインターネット回線(後述のVPNを含めて)主体へと移行した。
VPN(Virtual private network:仮想私設回線網)とは、通信回線は公衆電話回線やインターネット(現在ではこれがほとんど)などの公衆回線を用いるのだが、セキュリティ対策を施すことにより第三者のアクセスや盗聴の危険性を回避することにより、あたかも限定利用者間で専用的に使われるかのようにした回線である(閉域ネットワークともいう)。
そのセキュリティ対策の方法、運営の方法により、IP-VAN、広域イーサーネット、インターネットVANなどに区別される。
専用線の料金体系は一般に高く、特に長距離回線が高いことが指摘されていた。VPNはインターネットを用いるので、距離に依存しない料金体系になる。そのため、全国に拠点を持つ大企業にとっては劇的な通信コストの低減になるし、企業間ネットワークの活用も安価になる。
しかし、VPNは「共有」であることから、その回線のアクセスが増大すると、回線速度が低下する。VPNでも回線速度による料金体系になっているが、そこでの回線速度は「最良の環境での速度」でありベストエフォートという。
VPNの定義が曖昧なので、最初のVPNを確定するのは困難であるが、小規模あるいは試験的なサービスは1994年頃から始まったようだ。1990年代末から2000年代当初にかけて、NTTコミュニケーションズなどによる本格的なサービスが展開された。2000年頃は、インターネットVPNとIP-VPNであったが、2002年頃から、広域イーサーネットが始まり、2010年頃では、これら3つのVPNと「専用線・その他」の利用比率がほぼ均衡している。
インターネットVPNとは、通常の不特定多数が利用できるインターネットを用いたVPNである。IPsecという暗号プロトコルを使用して、利用者の認証、通信内容の暗号化を行い、セキュリティを確保する。
従来からある標準的な環境や技術を用いているので、適当な技術力があれば、プロバイダに依頼せずに自社で構築することもできる。そのため、他のVPNよりも安価で構築・運用することができる。逆に、他のVPNと比較して、セキュリティや通信品質などの面で劣る。
プロバイダが保有する広域通信網(閉域IP網)を利用する。その通信の方法をインターネットでのIPというプロトコルを使っているのでIP-VANという。複数のLANをIP-VANに接続することにより、全体を一つのLANであるかのように取り扱うことができる。
この通信網はプロバイダの専用線なので、契約した企業しかアクセスできないため、IP-VANよりもセキュリティが高くなり、高い品質も保証できる。
また、提供者が独自の付加価値を加えやすく、例えば、IP-VANではMPLSというルーティングプロトコルを利用しているが、MPLS対応のルータでルーティングまでサービスしたり、パケットに付加するラベルを工夫して、利用者に合致した機能をもたせることができる。
このように、利用者のネットワーク設定から運用まで幅広くきめの細かいサービスを提供することができる。この観点では、従来のVANの発展形態とも考えられる。それで、IP-VANは、最初にサービスが開始されたVPNであった。
社内のLANはイーサーネットが主流であるが、それを社外(広域)に適用するものである。ネットワークを仮想化する「VLAN(Virtual LAN)」という技術を利用し、中継網をユーザーごとに分割することでセキュリティを確保する。
広域イーサネットの特徴は「レイヤー2スイッチンハブ」を利用することにある。複数のLANをまとめるのはIP-VANと同じだが、IP-VANではIPのレベル(ネットワーク層)で統一しているのに対し、広域イーサネットでは、その一つ下の層(データリンク層)での接続である。そのため、独自の通信プロトコルをもつ汎用コンピュータすら接続機器にすることができるなど、より広い適用が可能になる。
広域イーサーネットはやや遅れて2002年頃から、中央区、港区程度の中規模域への適用が行われ、次第に広域化した。また、LANは高速になりギガbpsまで実用化してきたが、それを広域イーサーネットで統合するには、その回線もギガbpsの能力が必要になる。それがイーサーネット専用線(後述)である。2000年代後半には、イーサーネット専用線と広域イーサーネットがあいまって普及した。
2000年代前半では高速デジタル専用線からVPNへの利用へと移行していった。
一時は低迷した専用線であったが、2000年代後半になると、災害時における企業の事業継続の必要性が社会的にも重要なことが認識され、BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)が重視されるようになった。その重点の一つが企業間ネットワークの確保である。
専用線は、
・セキュリティ面では、どのようなVPNよりも安全である。
・第三者のアクセスにより実効速度が減じることがない。
・大規模災害時でも(回線が通じていれば)通信が保証される。
の特長があるため、非常時用として最低限の回線を確保している企業が多い。BCP対策に万全を期すために、専用線を導入する企業も増えている。
さらに、インターネットやVPNでも、幹線であるバックボーン回線には、プロバイダの専用線が利用されている。このように、専用線が進歩しなければ新たなサービスが展開できないのである。
また、専用線の高速化や安定化の技術が発展してきた。
ギガストリームとは、ギガbpsの高速回線であり、それにイーサネット仕様に対応させ、専用線としての保守性や利便性を高めたものをイーサーネット専用線という。NTTコミュニケーションズでは、2010年現在、最大40Gbpsの高速、稼働率99.999%の高い信頼性をもつとしている。
イーサーネット専用線は2点間を接続するものであり、3拠点以上を結んでレイヤー2スイッチ交換機能をもたせたサービスが広域イーサーネットであるといってよい。
2000年に東京通信ネットワーク(TTNet,当時)が関東の一部で試験サービスを始めたのが最初で、2001年にはクロスウェイブ コミュニケーションズが東阪間でイーサネット専用線を中継するサービスを始めた。そして、2002年には,NTTコミュニケーションズ、KDDI、日本テレコムがイーサネット専用線サービスを開始し、その後、品目追加や料金改訂を続けることにより、インターネットのバックボーン用を中心に需要が急速に増加してきた。