IT発展の歴史は、IT利用の大衆化の歴史だといえます。EUCの普及や戦略的な活用が進むに伴い、ITに関して従来はIT部門の任務だったのが、利用部門が主体的な当事者になることが求められるようになりました。
(参照:「情報システム部門の特殊性の減少」)
IT全般に関する任務
- システム化計画での主要メンバー
システム化の全体計画は、経営戦略からのトップダウンによる要請と、実務の改善・改革のためのボトムアップの要請を統合する必要があります。実務をよく知り問題意識をもっているのは利用部門なのですから、利用部門が主要なメンバーになります。
(参照:「要件定義でのトップダウンとボトムアップ」)
- 費用対効果への責任
計画したIT化の効果を実現するのは利用部門です。情報システムはできたのに業務改善が伴わないとか、実際には利用しない過剰要求をして費用を増大させたなどは利用部門の責任です。
- 分散環境での管理
分散処理が進むと、パソコンの管理、サーバのデータのバックアップ、LANのトラブル対応などの業務が発生します。
基幹業務系システムでの利用部門の任務
基幹業務系システムは、仕事の仕方を規制しますし、実際に利用して成果をあげるのは利用部門です。すなわち、利用部門が基幹業務系システムのオーナーなのであり、積極的に関与することが重要なのです。それをシステム開発のライフサイクルの各段階でみていきます。
- 要件定義
開発すべき情報システムの機能を決定するプロセスです。このプロセスが不適切だと、役にたたない、使いにくい情報システムになってしまいますし、開発途中で追加や変更になると手戻りが発生して費用や納期に大きな影響を与えます。要件を的確に開発者(IT部門やベンダ)に伝えることが重要です。(参照:「要件定義の重要性」)(説明)。
要件定義での留意点
- 要件定義が不十分なことが多い
現実には、、「人により要求が異なる」、「要求がいつになっても決まらない」、「後になってから要求が変わる」など、要求分析段階での利用部門への苦情が多いのです。
(参照:「要求フェーズでの苦情」)
- 全体最適化に留意する
現在の情報システムは、一部門に限定されたシステムではなく、他部門の関連するシステム、社外に関連するシステムが多くなっています。関係者が多くなれば、利害の対立が生じます。各部門が自部門の都合ばかりを主張したのでは、全体最適化を実現するシステムは構築できません。(参照:「全体最適化と部分最適化」)
- 過小要求と過大要求の弊害
とかく利用部門は、当初は小規模な要求をして、情報システムが稼働してから多様な要件に気付くことが多いのです。それで、第二次開発になるのですが、要件の内容によっては全面改訂になり、先の開発が無駄になることがあります。
逆に、たいして重要ではない機能まで要求して、巨大・複雑になり費用・納期がかかったわりには使われない機能が多い情報システムにしてしまうこともあります。(参照:「過大要求の弊害」)
- 用語の統一が重要
情報システムの開発者に要件を正確に伝えることが重要です。ところが、お客のことを「顧客」や「得意先」など多様な用語を使う。「得意先住所」とは商品の配達先なのか、請求書の送付先なのか。出荷とは顧客に配送することなのか、自社内の他の倉庫への転送を含むのか・・・。このような用語や概念が部門や人によって異なると、特に社外のベンダに伝えるときに、誤解を生じる原因になります。
(参照:「用語定義の重要性」
- 開発段階
プログラムの作成やコンピュータへの実装は開発者が行いますが、コード体系とコードつけやマスタファイル(台帳)の作成などの作業は利用部門が行う必要があります。
- 受入れテスト
情報システムにはエラーがあります。エラーがある状態で稼働すると、思わぬトラブルが発生して、企業の信用を失ったり社会問題に発展することもあります。それを防ぐためにテスト(エラー発見・修正)を十分に行う必要があります。実際にシステムを使うのは利用部門なのですから、利用部門が責任をもって参加する必要があります。
(参照:「テストと利用部門」)
- 非IT活動
このプロジェクトの目的は業務改革の実現であり、情報システムはそれを実現するための手段にすぎません。プロジェクトを成功させるには、業務改革、組織改革、社外折衝などの非IT活動のほうが重要な要素になります。これは利用部門の固有の任務です。
(参照:「非情報系活動の情報システム開発に及ぼす影響」)
EUC(エンドユーザ・コンピューティング)での利用部門の任務
パソコンの利用、情報検索系システム、グループウェアなど、EUCでのIT活用では、その成否は利用部門にかかっています。
- パソコン利用技術の習得
ワープロソフトや表計算ソフトなどパソコン活用技術は個人の生産性向上に役立ちます。
- 情報検索系システムの活用
情報検索系システムは、日常業務にも役立つだけでなく、大きな利益を生み出す計画業務にも活用されますが、その効果は利用者の問題意識にかかっています。
(参照:「情報検索系システムの日常業務への適用」、「計画業務への適用」)
- 情報検索系システム技術の習得
情報検索系システムの利用の普及により、基幹業務系システムの規模を小さくできます。これは、システム開発の短期化、システム改訂の容易化になり、経営環境変化への対応を容易にするので重要なことです。
(参照:「情報検索系による基幹業務系の簡素化」情報検索系による基幹業務系の簡素化)
- グループウェアの有効活用
グループウェアは、組織を超えた情報共有、知識の共有、協同化など組織の活性化や創造性の向上に役立つこともあるし、単なる事務連絡の手段になってしまうこともあります。それは利用者の意識にかかっています。
(参照:「ナレッジ・マネジメント」、「グループウェアと組織文化」)